嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある所にねぇ、もう右の手も足もかなわんお爺さんがおんしゃったちゅう。そいぎぃ、ある親戚の人がねぇ、このお爺さんば見舞いに行きんしゃったちゅうもんねぇ。そうして、

「あんさん、ほんに不自由かない。あんさんの病気は何ちゅうとでございますかあ」ち言(ゅ)うて、その親切者の聞きんしゃったちゅうもん。そいぎぃ、お爺さんの言んしゃっには、

「私(わし)ん病気かあ。私ん病気はなあ、鼠の屁ですわあ」て、言んしゃったちゅう。そいぎぃ、見舞いに来た人は、

「不思議かにゃあ。今まで『ころり』ちゅうとやら、『赤痢』ちゅうことは聞いたごとあいどん、ぎゃん、『鼠の屁』ち言(ゅ)う病気の名は、聞いたことありまっせんばあ」て言うて、言んしゃったてぇ。そいぎぃ、お爺さんは苦笑いしてさ、

「そうじゃろう」ち言(ゅ)うて、「鼠は何て鳴くかにゃあ」ち言(ゅ)うたぎぃ、ようしとんさっぎぃ、

「鼠は、『チュウ、チュウ』て、鳴こうがあ。そいけん、屁は、『ブウー』って、鳴っばい。そいけん、実は私ん病気は、『チュウブウ(中風)』でございます」て、言んしゃった。

中風じゃったて、いう話。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P578)

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