嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかし。
ある村に、恐ろしかけち男のおったちゅうもん。先祖さんに、仏さんに、蝋燭(ろうそく)立てには赤(あっ)か唐辛子ば突きさしとらしたちゅうもん。そいぎぃ、近所ん者(もん)の、
「こりゃあ、何(なん)なあ」て言うて、聞いたぎんと、
「こりゃあ、蝋燭に火の付(ち)いとっばーあっ」て、そがん言うて。そうして、ご膳には絵に描(き)ゃあた魚ば削(は)いつけとらすちゅうもんねぇ。そうして、我が食ぶっおかずは何(なん)ちゅうかちゅうぎぃ、醤油の実てん梅干しで。そいで、このけち男は食べおらしたちゅうばい。
そがんしおったぎねぇ、何時(いつ)ーじゃいろう塩梅の悪しゃさしたちゅう。具合の悪しゃねぇ。そいぎぃ、また隣のおばっちゃんの行たてみて、鉢巻こにゃげて(鉢巻コネ上ゲテ)、フウフウいうて寝とらすもんじゃい、
「どがんあっとなあ」ち言(ゆ)うて、頭(あたみ)ゃあ手ばやったぎ火のごと滾(たぎ)っとっ、熱のあっ。
「こりゃあ、たまらん。お前(まり)ゃあ熱病ばい」て言うて、「お医者さんば早(はよ)う連れて来(こ)じにゃあ」て言うて、医者どんば連れて来らしたちゅう。
あったぎぃ、お医者のねぇ、
「こりゃあ、酷かあ。病気のぎゃん酷うなんまでほったらきゃあてぇ」て言うて、じき薬(くすい)ば飲ませらしたて。あったぎもう、青うか顔して脂汗きゃあて寝とったあ、このけちか男のばい目ばパチーッて開けて、ちぃった赤味のしゃあてきたちゅうもん。そいぎぃ、医者どんのねぇ、何気(なんげ)なしさ、
「私(わし)ゃなあ、高(たっ)か良か薬(くすい)ば飲ませたけん、早(はよ)う効(き)けたあ。良かったなあ」て、ちぃ言んさったて。
あったぎぃ、このけち男はそいば聞いてまたグニャーって、ちぃなって、そうして心臓の聞こゆっごとドッキンドッキン、ドッキンドッキンすっちゅうもん。そいぎぃ、医者どんは、また隣(とない)のおばっちゃんに言んしゃっことにゃあ、
「あぎゃん高(たっ)か薬も死んでしもうぎぃ、何(なに)ーもならん。ただにちぃなったあ。こりゃあ、ただにちぃなったあ」て、言んしゃいたちゅう。
あったぎぃ、そのけち男の床ん上、ヒョロッと起き上がって、
「薬はただかあ」て言うて、元気の出たちゅう。
ぎゃんけちか男じゃったてぇ。
チャンチャン。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P573)