嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

三人の男が見物して旅をしおったあて。

そん時の話で、ズーッと行きよったぎ見事の五葉の松のあったてじゃんもんねぇ。

「あれ、見てみんさい。見事じゃないかあ」ち言(ゅ)うて、眺めおったら、見物と言わるっだけあって、恐(おっそ)ろしゅうきれいか五葉の松じゃったてぇ。

「ごぎゃな五葉の松は珍しかあ。色も良か、姿も良か」ち言(ゅ)うて、三人とも感心して見よったところが、良(ゆ)う見よったぎぃ、上の方に何(なん)の巣じゃいあったて。

「ありゃ、あげな見事な五葉の松に鳥(とい)の巣ばかけとっ。鶴に間違いなか」て、一(ひと)人(い)が言ったて。

「いんにゃあ、鶴はめったにおらんばい」て、大方鶏(にわとい)の巣ばい」て、一人が言うたて。そうして、もう一人の人はねぇ、

「鶏は、あがん高(たっ)か所には巣はかけん。鳥どんじゃろうだーい」て、言うたて。

三人は、自分の考えはほんなこったと、もう言うて譲らんて。そうして、そのうちにねぇ、宿屋の主人ばさ、一人の男は宿屋の主人ば連れて来て、

「この近くの名物の五葉の松ば見物して来たいどん、あの上ん方に鳥(とい)の巣かけとった。鶏の巣じゃっと思うたが、亭主私(わし)が一両やるから、『そうじゃ』と、言うてくれ」て、頼んだて。

ところが、他ん者も、まあー一人の人もねぇ、

「宿屋の亭主、チョッと来い」て言うて、隅ん方に待っとって、

「五葉の松ば見物して、巣のあったあ。あぎゃん短かとに巣ばかくっとは、鶴に違(ちぎ)ゃあなかよね。私(わし)ゃあ、ありゃあ確かに鶴と思う」て。「亭主、お金ばちぃっとやるから、私(わし)がねぇ、『あれは鶴じゃ』と、言うたら、亭主、お前も、『本当に鶴だよ』て、言ってくれぇ」て言うて、「頼み賃」ち言(ゅ)うて、また一両もくいたて。

そうして、お膳が宿屋で運ばれて来て、皆いっぱい気色で飲みよったて。そいでも、飲みよったて。そいでも、飲みながらあの鳥の巣の話でもう、持ちきりじゃった。誰(だい)でん辛抱しきれんで、

「亭主ば呼んでみゅう」ち言(ゅ)うて、

「これこれ。亭主、来てくれ」ち言(ゅ)うて、呼びつけて、

「あの五葉の松に巣ばかけた鳥は、何(なん)じゃったいろう、教えてくれんかーい」て、三人が三人とも言うたて。そいぎぃ、亭主は畏(かしこ)まってねぇ、

「あれはさあ、一羽の鶴が飛んで来て卵を生んだちゅう。そうして、かえったのが二羽の鳥(とい)じゃったあ。鶏(にわとい)じゃったあ。そうしてさ、そいが大きくなって飛んで行たとはさ、ただいまではからの巣じゃった。烏(からす)じゃったあ。そいういことでございます」て言うた。皆から賄賂(まいない)ば取っとったもんだけん、皆の顔を立てて下がってしもうたと。三人ともギャフンとしとったてばい。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P571)

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