嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかし。

庄さんちゅうてさい、恐ろしか真面目か男の村におったてばい。そいぎぃ、あっとぎねぇ、隣(とない)村(むら)の親戚の家(うち)に行って、夜中に帰って来おらしたて。そいぎほんなことは、そけぇ親戚行たとこん者(もん)な、

「ぎゃん、遅(おす)うなったけん、一晩ぐりゃあ他所(よせ)泊まって良かさい。泊まって行きんさい」て言うて、恐ろしか勧めんさったぎぃ、

「いんにゃ。今夜は帰らんば明(あし)日(ちゃ)あ、早(はよ)う用事のあっけん、今夜は帰らんば。明日あは、早うから用事のあっ」ち言(ゅ)うて、夜(よ)中(なき)ゃあ帰って来おらしたて。

あったぎばーい、村の入い口辺(にき)まで来たぎねぇ、向こうからチントンガラン、チーン。チントンガランて、お葬式のこっちさいやって来っちゅうもん。だんだん、だんだん我が所(とこ)ん辺(にき)さい。おかしかにゃあ、誰(だーい)も病気しとっちゅうこと聞いたことなかったいどん、誰(だい)の葬式かあ。山ん中(なき)ゃあ、不思議かにゃあ、て思うとったて、庄ちゃんな。そいぎぃ、その葬式は我がとすれ違うて行くてじゃんもん。そいぎ村ん者(もん)じゃ、

「今夜の葬式は誰(だが)そうしきやろうかあ」て、聞いたぎばーい、棺桶ば担いだとの、

「庄さんの葬式ばーい」ち言(ゅ)うて、通っていたちゅう。

そいから先は声も立てんごとして、通り過ぎていたていう。不思議かにゃあ、庄て言うたあ、この山、誰(だーい)もおらじ俺(おい)一(ひと)人(い)ばってん、我が葬式ちゅうぎ不思議かにゃあ。聞く間違いじゃったちろうわからーん、と思うて、我が家帰らしたちゅう、庄さんの。あったぎ仏壇に蝋燭(ろうそく)どんが灯されてさ、線香どんがプーンと匂いのして、おったて。そいぎ家(うち)ん者(もん)に、

「何(なん)の家(うち)にあったとやーあ」て、聞いたぎぃ、誰(だーい)もそれは言わじぃ、

「今、葬式のすんだばあっかい」て、こいしこ聞いたて。

そいから先ゃ、何(なーん)て言わんてじゃんもん。不思議かにゃあ、ぎゃんことのあろうかーあ。良か、良か、明日(あした)の朝、早稲田さい行た聞くぎぃ、良(ゆ)うわかったいと思うて、そのまま庄さんは寝らしたちゅう。あったいどん、もう、ほんにねぇ、夕べ帰いがけから不思議かことばっかいじゃったいどん、寝てね、いっちょん寝ぇらん。あったぎぃ、朝早(はーよ)う起きて、朝ご飯も食ぶん前、お寺さい行たてさ、

「夕べ葬式のあいよったとは、誰(だい)やったろうかあ」て、言うたぎぃ、返事はせじぃ、

「庄さんな、ちぃ死なしたもんなあ。ほら、こいが位牌さんばい。新しい位牌さんばい」て、お寺から見せらしたぎぃ、そりゃ、我が位牌てじゃんもん。

「俺(おり)ゃ、生きとっとこれたまらん。ぎゃん、生きとっとこれぇ」て言うて、急いで我が家(え)帰って、

「俺(おり)ゃあ、死んどらんぞう」て言うて、喚(わめ)きらしたちゅう、庄さんな。あいどん、誰(だーい)もそれうてあわんちゅうもんねぇ。

あったいどん、そいから七日七晩、庄さんなコンコンと眠って、そのままとうとう死なしたちゅうばい。我が葬式合(お)うて、我がはとうとう死なしたちゅう、不思議なことやったあて。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P571)

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