嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある男が大変信心深く、辻のお地蔵さんをねぇ、恐ろしか信仰しおったてぇ。ところが、長いこと辻に立っておられたから、幾ら石の地蔵さんでも丸いのが、なかなかもう、こう、狭く見えるようになったい。そのうちその石のお地蔵さんは、お鼻が欠けとったて。あらっ。お鼻の欠けとんしゃっ。俺(おい)が、どぎゃんないとんして直(なわ)してあげんばにゃあて、その信心深かもんだから、その、思うとったて。そいぎぃ、鼻の欠けとっを得るため、お医者さんじゃろうだーい、と思うて、医者さんの所(ところ)ぇ飛んで行たて。そして、

「辻のお地蔵さんの鼻の欠けとんさっけん、ぜひ、お直してください」て、お医者さんに言うたて。そいぎぃ、

「私(わし)は人間の病気は治すが、石の地蔵さんな鼻の欠けとんさっ病気は治しきらんぞ」て、言んしゃったて。そいぎぃ、

「お医者さん、お医者さん。そいでも、お地蔵さんな人間の形をしとんさっよう。人は皆、『あなたは名医だ、名医』て、言いおんしゃっとこれぇ、私がこれほど頼んでも、あなたは、あの地蔵さんの鼻を直しえんですかあ。鼻は直せんですかあ」て、言んしゃったぎぃ、

「お前(まい)はなあ、平仮名は読めても漢字は読めんとみえるなあ」て、なぞんような言葉を、その名医さんは言って、あっちさいもう、行たてし仕舞(しみゃ)あいんさったて。

「ひょんなことば言んしゃった。平仮名は読むっどん、漢字は読めん」て。「なぞんごたっことば、あの物知り医者さんは言んしゃったねぇ」

そいぎぃ、こりゃもう、物知りの男ん所(とけ)ぇ行たて相談してみんに限る、て思うて、あの村でもほんに物知りという評判の所に行たて、

「お地蔵さんの鼻の欠けとっとば、お医者さん所に、どぎゃん幾らでんお金は言うしこやっけん、『治してくんさい』て、相談したぎぃ、そん人が、『幾ら名医でも石の地蔵さんの鼻は直しゃえん』て。『お前ゃ、平仮名は読みゅっどん、漢字は知らんとじゃろう』て言うて、はって行きんさったあ」て、言うたぎぃ、

「そうじゃろう。そうじゃろう」て、物知りさんが言うて、

「お前、『医者』と言うととばい、『石屋』と言うとは、平仮名で書くぎ同じ字よ。そいぎぃ、石屋さんに頼むぎぃ、じきー直しんさっ」と、言うことでした。

「そうか。そういうことじゃったかあ」て言うて、石屋さんに頼んでみたぎぃ、じきー翌日は元んごと、ちぃった(少シ)鼻の低かったいどん、立派にその辻のお地蔵さんの鼻が直ったて。

そういうことです。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P570)

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