嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
田舎に夫婦者(もん)がおったてぇ。そいぎぃ、その年ゃ恐ろしゅう豆の沢山(よんにゅう)取れたてじゃんもん。そいぎぃ、
「豆の豊作じゃっけん、家(うち)じゃ食(き)いきらんもん。町さい売いに行こうだーい」ち言(ゅ)うて、男がねぇ、その袋にいっーぱい入れて山道ば通いよったて。
そしったぎぃ、山道でさ、一(ひと)人(い)の盲さんが道ん端でウロウロ何(なん)じゃい探しおんしったてじゃんもん。そいぎぃ、その男が、その盲さんの辺(にき)行たて、
「そこで、あんさんは何(なん)しとんさっやあ」て、訳(わけ)を聞きんしゃったて。そいぎぃ、盲さんの言んしゃっには、
「実は、私はここさい来て落し物ばして、小(こう)ーか物じゃっけん、なかなか見つからんで探しおいますよう」て、こう言うこっじゃったて。そいぎ男は、
「そりゃあ、また難儀なこってぇ。そいぎぃ、その落し物はどぎゃん物(もん)ですかあ。私(あたし)も手伝いましょうかあ」て、言うたぎぃ、盲さんのねぇ、
「長い間かかって溜めとったお金じゃったとこれぇ、こけぇ、あの、ちぃ落としてしもうたあ。そうして、私は目が見えんもんじゃっけん、なかなか見つからんでね、本当に困っております」こう言うて、言んしゃったて。そいぎ男がねぇ、
「そうですかあ」て言うて、道ん端棒持って、こうこうわけて探しよったら紙に包んだとのねぇ、あってじゃっんもん。
そいぎぃ、そのお金の見つかったて。そいぎねぇ、貪欲の出たて。そうして、コッソリそいを取い上げてねぇ、自分の懐に隠したて。そうして、男は知らん振りしてねぇ、
「これ、これ。なかなか見つからんもんですなあ。どぎゃしころ(ドレダケ)探(さぎ)ゃあてもみつかりませんなあ。困ったもんでしたなあ」ち言(ゅ)うて、ほんに同情したごと言うてからねぇ、
「その落し物な、あんさんの袂(たもと)ん中じゃい、懐に、帯ん中じゃい挟(はさ)まっとっとじゃないですかあ。帯どん解いて良(ゆ)う、まいっちょ探してみんさーい」て言うて、そこを行たてしもうたて。
そいぎぃ、その盲さんのねぇ、着物も解いて、あの、払うてみたいした後でも、そのお金がないもんだから一生懸命、一日中暗(くろ)うなっ頃まで、そこで探しおいしゃったいどん、とうとう見つからんやったて。
一方ねぇ、その男は町さい行たてじゃっもん。そうしたところが、町ん者な、「豆は畑の肉」ち言(ゅ)うて、「ほんに、その大豆は体んため良か」ち言(ゅ)うて、もう会う人ごとに買(こ)うて、じき高い値で売れてしもうたて。そいぎぃ、その男は、
「今日(きゅう)は運(ふ)の良かったねぇ。お金は拾うし、いい気分じゃあ。そうして、豆は高値(たかね)で売れるし」ち言(ゅ)うて、とても良か気分になって、酒屋に寄ったて。そうして、
「酒どん飲んで行こう」ち言(ゅ)うて、「たんまり酒どん飲んで帰ろう」て言(い)うて、ヨトヨト、ヨトヨト、千鳥足てっじゃっもん。
そいぎねぇ、一時(いっとき)ばっかい行きよったぎぃ、道ん端お堂のあったけん、
「ああ、嬶から叱らるっぎ損なことじゃ。酔でん醒(さま)まして行こうかい」ち、そのお堂にゴローッて、寝んしゃったて。
あったぎねぇ、良か気分と酒の勢いで鼾(いびき)きゃあてじき眠ってしみゃいんしゃったて。グッスイ眠んしゃったて。あったぎぃ、何処(どっ)からじゃいねぇ、二羽の真っ黒か烏の飛んできて、その眠っている男の目玉をねぇ、ツツツツ、ツツツツ突(つつ)きおったところが、目玉をいっちょずつ二羽で、両方の目玉をくわえて飛んで行たてしもうたてぇ。男の眠っとったうち。そいぎぃ、やおらしてから(シバラクシテカラ)、男が目を覚ましてみてねぇ、どうして目は覚めたいどん、何処見ても真っ暗うして見(み)ぇかからんてじゃっもん。あらー、もう夜(よ)さいじゃろうかあ、と思うて、何(なーん)も見えんと思うて、顔に手を当てて目の辺(にき)ばみたぎぃ、目の玉がなかったて、両方とも。
「あらー、私(わし)の目玉は無(の)うなったあ」ち言うて、「ああ、俄盲になったあ。俄盲になったあ」て言うて、泣いてねぇ、「私(わし)ゃ、西も東もわからん」ち言(ゅ)うて、手探(さぐ)いして、オンオン泣きおったて。
「助けてくれー。助けてくれー。俄盲さんを助けてくれー」て言うて、恐ろしか喚(わめ)きおったて。
実は、あぎゃんして盲さんのお金ば懐にひん直(なや)あてはって来たもんじゃっけん、そがんとの罰の当たったでしょう。幾ら喚いても誰(だい)も助けてくれんで、盲ちゅう者なこぎゃーん見えんで難儀すっとか、て思うて、泣き悲しみおったて。
そいばあっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P569)