嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

お上(かみ)に納むっ税金のことばばい、「上納、あいば取いたてぇ」て、言いよったもんねぇ。そいぎぃ、村ん者(もん)なねぇ、口で叫(おめ)ぇて伝えおったと。

「取いたてぇ。取いたてぇ」て、言いよった。村では、あの善ちゃんの声がいちばん太かったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、善ちゃんがその取いたてば村中叫(おろ)うで歩(さる)く役目じゃったて。

そいぎぃ、ある時んこと、善ちゃんが、

「取いたてはなんか、ようか」ち言(ゆ)うて、一日に晩も朝も叫(おろ)うで歩(さり)いたちゅうもん。

「取いたてはなんか、ようか」ち言(ゆ)うね。

あったぎねぇ、七日になっても八日になっても、誰(だい)一(ひと)人(い)でん、上納ば納めに来(く)っ者(もん)ななかったてぇ。そいぎねぇ、なしじゃろうかあて、誰(だい)一人も来んと思うて、そのねぇ、庄屋さんの村ん者に聞いて回んしゃったぎばい、

「善ちゃんの、『取いたてはなかー。よかー』て言うて、触れ歩(さり)いたけん、我が我がはもう、取いたてはなかとばいて、よかてやっけんと、思うとったあ」て、言わしたちゅう。

「そうやあ。七日(なんか)と八日(ようか)やったとこれぇ」て、庄屋さんの言わしたちゅう。

そいからまたねぇ、善ちゃんが触れたてぇ。

「取いたてぇ。取いたてぇ、いっかあー、いっかあ、いつかあ、いつかあ」ち言(ゅ)うて、触れ歩(さり)いたて。「五日(いつか)あ、五日あ」ち言(ゅ)うたぎぃ、「いっかあ、いっかあ」て、誰(だい)でん聞こえたちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、庄屋さんの門前には恐ろしゅう薪(たきぎ)の山んごと積まれとったあ。そいぎぃ、朝起きて庄屋さんの、

「こりゃ、何(なん)なあ」て言うて、村ん者(もん)に聞きんさったぎぃ、

「『取いたては、いっかあ』てじゃったけん、誰(だい)でん物焚(たきもん)ば一(いっ)荷(かあ)ずつ持って来たあ」て、言うたて。

そぎゃんことのあったけんばい、そいから先ゃ字ば書(き)ゃあて配らんば、難しかあ」ち言(ゆ)うて、字ば庄屋さんな書(き)ゃあてやっごとなんさいたちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P566)

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