嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ーろしか旱魃じゃったて。もう何(なん)でんかんでん干からびて、通り道ゃひび割れてしみゃあおったて。そいどん、人間にいちばん大切か水でん、そん年は出んじゃったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、お寺の和尚さんが、

「井戸ば掘っきぃ、水が出(ず)っぞう」て、教えんしゃったて。

そいぎねぇ、その村で、共同でセッセセッセと、井戸は今日(きゅう)も明日(あした)もちゅうごと掘んしゃったちゅうもん。あったぎ三日目にはね、恐ーろしか澄みきった水の噴き出(じ)ゃあてきたちゅう。

「ありゃあ、飲み水の出たあ。こいで助かったあ」ち言(ゅ)うて、誰(だい)でん喜びんしゃったあ。

そいば聞いたある男がねぇ、俺(おい)にもいっちょう掘い当ちゅう、と思うて、掘いしゃがすっぎ良かろうだーい、と思うてねぇ、横さにゃもう、隣(とない)まででん届くごと、恐ーろしか掘いおったちゅうもん。あいどん、何処(どこ)まで掘っても掘っても、いっちょうでん水ちゅう水が何(なーん)も出てこん。そいぎぃ、その井戸ば掘って水の噴き出た所(とけ)ぇ行たて、

「俺(おり)ゃあさ、俺(おい)も井戸ば掘ろうだいと思うて、大抵(たいーち)ゃもう、半月も掘っばってん、もういっちょん水が、湿り気いっちょでん出ん」ち言(ゅ)う。

「どらー」ち言(ゅ)うて、井戸の掘い当てた者(もん)の来てみたぎぃ、トンネルのごと横さいばあっかいその男掘っとったちゅう。そいぎぃ、

「そぎゃん半月掘ったてちゃ、一月(ひとつき)掘ったてちゃ水は出(ず)んもんかい」ち言(ゅ)うて、「お前(まい)さんな骨折ったのうー」て。「ほんに水の出(で)んやったない、草臥ればっかい儲けしたたーい」て言うて、「骨折い損の草臥れ儲けじゃったとは、お前(まい)さんのことばい」て言うて、皆から笑われて、井戸ば横さん掘りおったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P565)

標準語版 TOPへ