嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある村に元気の良か爺さんと婆さんがおったちゅうもんねぇ。婆さんは、

「明日(あした)は恵比須講じゃっけん、お供えすっ鯛を町まで買いに出かくっ」て言うて、支度をしおんしゃった。そいぎぃ、鎌を研いでいたお爺さんが、

「私(わし)ゃ恵比須様と言うが、本当はなあ木比須様ちゅうんだぞう」て言うて、お婆さんの、

「ない、ない。『木恵比須様た』言うことは、聞いたことはなか。恵比須様じゃよ。恵比須様がまとものところだい」て言うて、婆さんも負けじ言うたて。

「いんにゃ木比須様。いんにゃ恵比須様」て、言う声で。そうして、喧嘩ばしよったてじゃんもんねぇ。そいぎぃ、隣(とない)の婆さんが、

「まあ、まあ。そんな争いまでせんてちゃ。まあ、まあ」て言うて、仲裁に入(はい)んしゃったて。そうして、その婆様が言うには、

「そりゃあ、土(とべ)須様じゃなかろうか」て、言いじゃあたので、いよいよ木比須様か、土比須様か、恵比須様か、いっちょんわからんごとなってしもうたて。

「こりゃあ、役人に聞いてみんばわからんにゃあ」と、言うことになりまして、三人を連れて、また隣の婆さんは役所に行ったて。そうして、今までんことを、

「これこれ、云々(しかじか)」ち言(ゅ)うて、説明して話したぎぃ、役人は、

「三人ども、よく聞け」て。「絵に描いたものが、恵比須様」て。「木に彫ったものが木比須様」て。「土でこしらえたものが、土比須様。道理でほんなことの神様じゃよ」て言うて、三人は役人さんから、

「そぎゃん、わけもわからじ争うことなん」ち言(ゅ)うて、叱られて家に帰ったちゅう話です。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P564)

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