嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

男が、

「正月は良か夢ば見んばらん。良か夢ば今日は見っ。良か夢は話すぎ良(ゆ)うなか」て。ひん(接頭語的な用法)逃げて行くてじゃけん、誰(だーい)にも教(おし)えん」て言(い)うて、早(はよ)うーから布団ひっ被って寝とらしたて。

あったぎぃ、夢ば見らしたちゅうもんねぇ。そん夢がさあ、もう屋根でん何(なん)でん酷うー嵐のきて吹き飛ばさるって。そうして雨もドンドンやって降ってくってじゃもんねぇ。家(うち)までひん(接頭語的な用法)流さるっごとなってきたあ。水の増(ふと)ってきたあ。そうして、昔から自分の家(うち)あった長持ちも、プカーリプカーリ浮かって流れ出すてぇ。そいぎぃ、あの長持ちん中(なき)ゃあ、我が今まで稼いだお金はみーんな、あの中入れとるのに、こりゃたまらん。お金までひん流るっぎぃ、と思うて、この長持ちだけは流すことなん、と思うて必死になってねぇ、水の中に泳―で長持ちば支えて、足で支えて。そうしたぎもう、水のまーだ増ってきて、冷(ひよ)ーしてたまらんてじゃもんねぇ。そういう時、良か塩梅(んびゃあ)に側に柳の木の植えとったもんじゃあ、その柳の枝に一生懸命片方でつかまって、片方の手では、もう、一生懸命その長持ちば押えとったて。あったいどん、向こうの方にゃ赤鬼の出て来て、今度は太ーか棒で男ば叩くちゅう。

「ああー痛い。痛かあ、痛かあ」て、言いながら、柳の枝につかまっとったどん、長持ちはひん流れんごとつかまっとって。男は冷(ひよ)ーはあるし、震えながら一生懸命じゃったて。

あったぎぃ、酷ー痛かごとまた棒で鬼の叩くてじゃもんねぇ。そいぎぃ、あらっと思うて、目が覚めてみたぎぃ、何(なん)の我が嫁さんやったて。嫁さんの、

「もう昼にないおっとこれぇ、ぎゃん遅(おす)ーまで寝て」ち言(ゅ)うて、叩きおんさいたて。

そいぎぃ、目覚めてみたぎねぇ、自分は、あの、寝床の布団にシッカイ片一方つかまって、枕ば片一方で押えて、そうして、寒いなあ、と思うとんしゃったぎぃ、いっぱいお寝小便(ねしょう)しとんしゃったて。そいが夢じゃったて。誰(だい)にでん、こりゃ絶対話されん夢じゃったて。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P563)

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