嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかし。
若(わっ)か夫婦の家(うち)にねぇ、隣(とない)から餅を三つ貰(もろ)うて、
「どうぞ、うち餅搗(ち)いたけん、食べてくんさい」ち言(ゅ)うて、
三つ持って来(き)んさいたて。あ
ったぎねぇ、いっちょ(一ツ)ずつ食べたぎぃ、いっちょ残ったて。
そいぎねぇ、親父さんが言わすにはねぇ、
「この残っとは誰(だい)が食びゅうよいなかもん。
ものば先いうた者(もん)が食べじぃ、言わんごろしゅう」て。
「ものば言わんじゃった者が食べて良かばーい」て言うて、賭けしんしゃったて。
そいぎぃ、嫁さんも言わん、聟さんもものは言わん。
何(なーん)とも言わんとおったぎぃ、夜(よ)さりなった。
そいぎねぇ、ゴトゴトして泥棒の来(き)たてよう、そこん。
そいぎねぇ、嫁さんの目(め)ぇかかった、もの言うぎ餅ば食われんやろう。
困ったにゃあ、指ばっかい差しおったてぇ。
そいぎぃ、聟さんも指を指す方を、こうして見たぎぃ、もうソロソロ箪笥の
引き出しでん何(なーん)でん開けて、良かとこ持ってはって来(き)おって。
そいぎもう、その大きか風呂敷に泥棒が、
「よっこいしょ」と言って、立ち上がろうでしたもんじゃっけん、嫁さんが、
「ハー、泥棒」て、言んしゃったて。そいぎ聟さんのねぇ、
「お前(まり)ゃ、食うごとなん。餅ゃ俺(おい)がとう」て言うて、食べらした。
あいどん、余(あんま)いもの言わんごとしとっぎね、食わじおっぎぃ、
泥棒に入(ひゃ)られて、家(うち)ん中、空っぽになっ。
そいばあっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P562)