嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
たったいっちょ美味(うま)か物ばさ、ばこうて(互イニ奪イ合ッテ)食ぶっぎ美味かとじゃろうねぇ。
美味か物な少しでも、そうしてちっとないどん沢山(よんにゅう)食べたかとじゃろうか。
ある所に大きな饅頭ばお父さんが、一(ひと)人(い)で貰って来(き)んさったちゅう。
そいぎぃ、兄弟二(ふた)人(い)おったとの半分したてぇ。そいぎぃ、兄さんの方が、
「そっちが太か」て言うて。
「いんにゃあ。こっちが太か」ち言(ゅ)うて、兄弟喧嘩の始まったて。お父さんは、
「うるさい」て言うて、言んしゃいどん、まあーだ、
「そっちが太か。こっちが太か」ち言(ゅ)うて、いーっちょん兄も弟も譲らん。
そいぎぃ、お父さんが、
「何(なん)て言いおっかあ。大方いちょうにわけやっけん良かくさい。
ちぃっと(少シ)ぐりゃあ、沢山(よんにゅう)食うたい、少(すく)のう食うたいして良かと」て言うて、
たしなめんさいどん、二(ふちゃ)人(い)つかみ合うてばかい喧嘩すっちゅうもんねぇ。そいぎぃ、
「お父さんが良(ゆ)うーわけてやろうだい。そいで、弟の方が太かてや」
「そう、弟の方が太か」て、兄さんが言う。
「そいぎぃ、今度は父(とう)ちゃんが弟の方ば、ちぃっと食びゅうだい」て、食べたて。
「そいぎぃ、兄ちゃんの方が太ういち(接頭語的な用法)なったあ」て、弟が言うたて。
「あんないば(ソンナラバ)、兄ちゃんの方ばちぎって、ちぃっと食ぶっばい」て。
「そぎゃん沢山(よんにゅう)食べてから父ちゃん、弟の方が今度太うなったばい」て言うた。
「そんないば、まいっちょそいぎぃ、こっちば食びゅうだい」
こっちば食べ、あっちば食べしとっうち、とうとう小(こーう)もなったちゅう。そいで、兄弟は見とっ前でねぇ、
「お前(まい)達の喧嘩のたねじゃっけん、俺が食べてしまう」て、カブーッて、お父さんが食べてしもうた。
そいばあっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)