嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

田舎の百姓に
三人子供ば持っとんしゃっおっ母(か)さんのおんしゃったてぇ。
男ん子ばっかいやったちゅうもんねぇ。
上の二(ふた)人(い)の兄ちゃんなさ、ほんに利口かて。
三人目の子供は、ほんに何(なん)でん役に立たんごと、
ちぃったたらんごたっ子じゃったて。
そいけん、何時(いつ)ーでんもう、三人目の子はねぇ、
弁当持ちんさらんじゃったちゅう。

そいぎもう、ある日のこと、
恐ろしか天道さんのカンカン照っ時にねぇ、

「この弁当ば、兄ちゃん達の気張いよんしゃ畑まで
持って行たて来ーい」て、言われてねぇ、
その末っ子が持って行きよんしゃったて。
ヒョッと後ろば見たぎぃ、
黒かとのつんのうて来(き)よっちゅうもんねぇ。

「こりゃ」ち言(ゅ)うて、立ち戻っぎぃ、そいも立ち戻って。

「もう、つんのうて来(く)んな」て言うぎぃ、ようしとって。
また、早(はよ)う行こうだいと思うて、駆けて行くぎぃ、
黒かとのつんのうて(ツイテ)来(く)っちゅうもん。

そいぎねぇ、
今日(きゅう)は母(かあ)ちゃんの弁当は団子じゃったて。
そいぎぃ、

「ほら、団子ばいっちょくるっけん、つんのうて来(く)んな」て言うて、
団子ばほたいやったぎぃ、
もう来(き)よんみゃあだいと、振り向いてむっぎぃ、
まあーだ来(き)よってやんもんね。
そいぎぃ、
また団子ば投げたぎぃ、まあーだ来(き)おって。
そうして、
もう大抵、兄ちゃん達ゃ働きおっとこれぇ、着きかかったぎもう、
遅(おす)うには怖(えず)うなって、
「全部(しっきゃ)あどめくるっぞう」て言うて、投げつけたいどん、
あいどん
まあーだ追っかけて来って。

そいで、
とうとう兄さん達、働きよっ所(とこれ)ぇ行たてじゃんもんねぇ。

「今日(きゅう)の弁当は」て、言うたぎぃ、

「弁当は空(から)になしてしもうたあ。
黒か怖(えす)かとのごっとい(イツモ)つんのうて来(く)っけん」
て、こう言んしゃったて。

「何処(どけ)ぇ」て。

「こけぇ、ほら」て。

「何処ぇ」て。

そいぎぃ、その三人目のちぃっと馬鹿たれ息子が立ってみると、

「こけぇ、おっばーい」て、指しゃあたとば見たぎぃ、
何(なーん)の影法師じゃったあ。

それも怖(えっ)しゃねぇ、恐ろしか怖しゃも怖しゃ、
エッサラホッサラで逃げて行たあーて、いう話。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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