嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
あの、珍しか靴のあったてぇ。
そいぎぃ、いっちょん、あれは便利か物だなーあ。
靴を僕も履いてみたい、と思うてねぇ。
ねぇーね、縦の幅も横の幅もしっかい違わんように、
ちょうど寸法をとって寸法がきをちゃーあんと書いとったて。
ところが町に行く時ゃ、その寸法がきを書いとったとを忘れてね、
町さにゃ行たらねぇ、ちょうど靴屋さんのあっ所の、こうーして店を見たら自分にちゃーあんと、
良かりそうな靴があったもんだから、あの靴が欲しいなあ。
あれが欲しい、て思いよったらねぇ。
だけどポケットやら、内ポケットやら探してみたら、ポケットに入(はい)っとらん。
こらーあ、困ったあ。ほんに家(うち)まで取ってこにゃあいかん。
あの、て、時計を見たら、もう三時半あったてぇ。
そいぎぃ、その店が四時までて、書(き)ゃあてあったてじゃんもんねぇ。
家(うち)は遠いから、とても四時まで来(き)いきらんけど、急いで走って帰って来よう、
と思うて、その男帰ったて。
そしてもう、息咳きって駆けて走って来てみたら、もうしっかりと戸は閉まってねぇ、
店は閉まっとったあ。そいぎぃ、そのへんにおっとに、
「あらー、寸法がきを家に取りに行ったら、店は閉まっとったあ」
て言うたら、近くにおった他所(よそ)のおばっちゃんが、
「あーんさん、自分の足には合わせて履くとば寸法がきやかも、いちばん合(お)うたでしょうに」
ち言(ゅ)うて、からかわれ笑われたあ。
そいばっきゃ、笑い話。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)