嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

あるお寺の近くにねぇ、鰻屋のあったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

小僧さん達ゃ昼からなっぎぃ、

鰻屋からまあ、鰻の匂いのすっちゅうもん。

そいぎ

鼻ピクピクさすん者(もん)もあったいどん、

たまらじもう、おったて。

あいどん

和尚さんな、お寺は生臭物(なまぐさもん)な絶対食べちゃいかん。

硬う言わすっとん。

しやんなし、

早(はよ)うご飯な、お昼ご飯食べてから、

その鰻屋の前ば、わざわざ行たい来たい、行たい来たい、

小僧さん達のしおったちゅうもん。

あったところがねぇ、

その年の大晦日になってぎぃ、

その鰻屋の主人のさい、付け持って来た。

請求書たいねぇ。

そうして、

それに書(き)ゃあてあっとば見たぎ「鰻の匂い代」て、

書ゃあてあったちゅう。

あったぎぃ、

そけもう一休さんのごと頓智の良か、あぎゃんとの、

あの、小僧さんのいてねぇ、

じき奥の部屋さい入(ひゃ)あって、

もう新聞紙ば何枚(なんみゃ)あでん、

つにゃあで恐ろしか太か、新聞紙の太ーか袋ば作って、

それ銭(ぜん)ば入れてねぇ、

そうしてね、

鰻屋の前に来て、

袋を振って銭の音ばジャラジャラ、ジャラジャラて、させんたて。

そいぎぃ、鰻屋は、

「たまらん。たまらん」ち言(ゅ)うて、退散して行ったて。

そいぎ小僧さんはねぇ、

もう匂いばっかいきゃあて鰻ゃ食べとらんじゃったて。

チャンチャン。

[笑話新一八A 匂いの代価(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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