嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

仲の良か夫婦のおらしたちゅうもん。

聟さんなセッセセッセと働き者(もん)じゃったいどん、

嫁さんな美味(うま)か物(もん)ばっかい食うて、

(今でいう食道楽で)

余(あんま)い美味か物ばっかい食うもんじゃっけん、

聟さんが幾ら働(はらり)ゃあても貧乏ばかいじゃったて、

その家(うち)ゃ。

そいで、

聟さんな仕事に行く振いしてねぇ、

俺(おい)がおらん時ゃ嫁御は、

どぎゃんしおったとじゃろうかにゃあ。

銭(ぜん)どま何時(いつ)ーでんなかごとして、

と思わしたもんじゃから、

ジーッと隠れて見おんしゃったて。

そいぎぃ、

昼近くなったぎ美味か臭いのプーンち、

すっちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

見えおったぎ美味か物ばっかい鍋で煮て、

一(ひと)人(い)でバチャバチャ、クチャクチャいわせて、

その嫁御は食べてしまうて。

そいば見てから夫は、

山に木を切りに行たて。

そうして、

帰りに青竹の良か塩梅(んびゃあ)とば切って家へ帰って、

女房に言うことにゃねぇ、

「俺(おり)ゃあ、お前(まい)、

俺(おい)が出て行たてから、

お前が鍋で美味か物ば食べおったとば、

良(ゆ)うこいで見っぎ見えたよう」

て、言んしゃったて。

そうして、

その青竹ば見せんしゃったぎぃ、

「こいが遠めがねちゅう物(もん)ねぇ。

そぎゃん遠か所(とこ)まで見ゆっとーう」

ち言(ゅ)うて、その女房さんな感心したて。

そいぎぃ、

「今から先ゃさ、我が一(ひと)人(い)で

美味か物ばっかい食うことでけん。

堪忍せんばい」

ち、聟さんな言わしたてぇ。

そいぎぃ、

嫁くさんな恐ろしゅうなって、

そいから先ゃもう、そういうことなかったちゅうもんねぇ。

ところが、

その話がさ、遠めがねが山からでん見ゆっちゅう話が、

そこん辺(たい)いっぴゃあ、

そいから隣村(とないむら)までも広がったてぇ。

そうした日に、

燐村の金持ちさん、分限者さんに泥棒の入ったちゅうもんねぇ。

盗(ぬす)うで行ったとは、五十両も盗んで行った。

その上、

良か着物(きもん)も何枚(なんみゃ)あでん盗んで行たて。

そいぎぃ、

遠めがねの何(なん)でん見ゆって言うことば聞いて、

「その遠めがねで見てくんさーい」

ち言(ゅ)うて、分限者さんが来て、

その夫婦者の男にやたらと頼みんさっちゅう。

そうして、

「その遠めがねで捜してくんさい。捜してくんさい」てね。

「いんにゃあ、しわえん(デキナイ)」て、言うても、

「そげん言わじぃ、引き受けてくんさい」て、言うもんじゃいけん、

仕方なしそん男は、もう寝もえじ考えおったいどん。

困ったにゃあ、

あいどん、どがんしゅんなかあ、と思うて、

夜(よる)外さい出たぎぃ、

その晩は十五夜さんの美しか晩じゃったちゅうもんねぇ。

そうして、

ぎゃん良か夜(よ)さいじゃっけん、

お宮さんのお堂まで参(みゃ)あてみゅうかにゃあ、と思いんさって、

ヒョッと思うて行きおんさったぎぃ、

氏神さんの近くまで行たぎばい、石灯籠ん所で、

「ムニャムニャムニャ、ムニャムニャムニャ」て、

誰(だい)じゃいコソコソ話しおったちゅう。

そいぎぃ、

ジッとかごうで聞きおんさったぎぃ、

一昨日(おととい)盗うだとは、と泥棒の話ちゅう。

「一昨日盗うだとは、瓦屋の松の下埋めとこかあ。

銭もその近くに埋めとくぎぃ。

そうして、瓦ば被せとっぎいっちょんわからんさ。

誰(だい)もわからんさ」

そがん言いおっちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

ジーッと見とっぎぃ、泥棒ちゅう。

そういうて、何時(いつ)のはじじゃいおらんごとなったて。

そいぎぃ、男は、

「良かごとば聞いたにゃあ。

神さんに参(みゃ)あよったぎ良かったにゃあ」ち言(ゅ)うて、

嬉しがって家(うち)さん帰って、知らん振いして。

そして、

翌日(あくるひ)もまた分限者さんが、

「青竹のあの遠めがねで見てくんさい。

泥棒ば捜(さぎ)ゃあてくんさい」ち言(ゅ)うて、

頼みに来(く)んもんじゃい、

「そうねぇ」て言うて、我が家(え)でその竹ん筒ば当てて、

もったいぶって、キョロキョロ、

あっちさい回しこっちさい回ししてから、

一時(いっとき)してから、

「うん。わかったばい。鬼門、お金もじきわかったあ」て言う。

そいぎぃ、

「銭(ぜん)はなあ、五十両も何処(どけ)あってぇ」

て、分限者さんは言う。

「その、その銭なさ、瓦屋さんの所(とこ)に行たてみんさい。

そうして、

その庭の瓦ばズーッとはぐって歩(さる)くぎぃ、そけぇあっ。

そして、

着物な、あぎゃん着物のきれいかと、

松の木の下のちぃっと高(たこ)うなっとっ所(ところ)、掘ってんさい。

そけぇ、埋まっとるかわからん」

て、言うたて。

そいぎぃ、

金持ちさんな、

「そりゃ行け」ち言(ゅ)うて、

下男でん女中でん総出で、

その瓦屋さん所(とこ)さい行たて瓦ばはぐってみたぎぃ、

ほんなこて出てきたちゅうもんねぇ。

「ありゃあ、良かったあー。お陰、良かったあ」て言うて、

「恐ろしかお礼ばせんば」ち言(ゅ)うて、

しこたま(沢山)お礼ば貰いんしゃったちゅう。

そいぎぃ、

ぎゃんことの有名にいちなってさ、

そうしてお城までもその話が伝わったと。

お城の家老さん所(とこ)の刀の盗まれたて。

「あいが盗まるっぎえらいことになっ。

家老さんは腹切らんばらんごとなっ」て、言うことで、

家老さんの家(うち)から、お使いの者が

その青竹遠めがねの男の家さん飛んで来て、

立派か駕籠(かご)ば持って、迎えの来て、

「早(はよ)う遠めがねで、

ご家老さんの刀の行方ば捜(さぎ)ゃあてくんさい。

早(はよ)う見てくんさい」言うて、頼むて。

そいぎねぇ、

その人は、

「お城には、今夜は寝られんごたっけん、宿屋が良かあ」

ち言(ゅ)うて、宿屋に泊まんしゃったて。

そうして、恐ろしかにゃあ、ぎゃん話の広がって、

チョッと困ったもんにゃあ、と思うて、

あいどん、

宿屋じゃんもん、こっちから逃げ出そう。

俺(おい)がおらんごとなっぎぃ、頼みぎゃ来(き)んさんみゃあ、

て思うて、朝早(はよ)う起きて、

夜(よ)の明けんうちから行きおったぎぃ、地蔵さんのあったて、

道端に。

そいぎぃ、

ここで一休みしゅうかにゃあ、と思うとったぎぃ、

その地蔵堂の裏は、ズーッと山になっとったて。

その地蔵堂の裏で、

またコソコソコソコソって、話し声の聞こゆっちゅうもんねぇ。

そうして、ジーッと耳澄みゃあて聞きおんしゃったぎぃ、

「この床下ば掘ってさ、刀ば埋めとくては、

誰(だーい)の気のつくもんきゃあ」

て言う声のしおったて。

そいぎぃ、

ここまで聞くぎぃ、良か良か、と思うとったぎぃ、

「早(はよ)う、埋みゅう。夜(よ)の明くっぼう」て言うて、

そいどんが早(はよ)うゴソゴソやって埋めて。

そいどん、

ほんなこて夜の明けたぎ泥棒はおらんごとなったて。

そいぎぃ、

そん男も、遠めがね男もなーん知らん振りして宿屋さい帰って。

そうしてもう、

庭ば散歩しよった振りして部屋にかごうどったぎぃ、

宿の主人が、

「お客様。家老様が、ほんなこて勝手なお願いだが、

どうぞ調べてください。

お家騒動にもなりかねないですよ」

と言うて、頼みんさっ。

そいぎぃ、その遠めがね男は、

家老さんの家(うち)に駕籠に乗って行たて。

そうして、

その遠めがねであっちこっちキョロキョロ見て、

「ぜひ、当ててくんさい。ぜひ、お願いします」

と、言われて、

またもったいぶって上を見たい、下を見たいして。

そうして、

あっちこっちキョロキョロしてから、

「わからんなあ。こりゃ、わからんなあ」

て、言ったりしてヒョッと一時(いっとき)してから、

「地蔵堂の裏手付近が、おかしかにゃあ。

まーいっちょ見てみゅうかあ」ち言(ゅ)うて、

「あの地蔵堂の裏ん方ば怪しかごたっけん、

あの床下ば掘ってみてんさい。

そいぎぃ、

ヒョッとすっぎ刀の出てくっじゃいわからんばあーい」

て、コソコソ話ば聞いてきたとば言うたちゅう。

早(はよ)う、地蔵堂に走れ。一時(いっときい)も早う」

て言うて、

ぞろい(大勢デ)行たて、押しかけたぎぃ、

なるほど見事にそけぇ名刀があった。埋まっとった。

そうして、

その男は、沢山褒美を貰うて帰ったて。

運の良かったて。

そいばあっきゃ。

[六二六A 嘘八卦(AT一六四一)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

標準語版 TOPへ