嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある山寺で、

恐(おっそ)ろしか和尚さんのお餅好きな人がおんしゃった。

お餅好きな和尚さんじゃったて。

そいぎ

檀家から、お餅の上がっぎもう、

お餅にはいっちょうーでん、

目はくれじぃ、いや、小僧さん達には一つでんやらじぃ、

和尚さんな小僧さん達のおらん時、食びゅう、食びゅう、

と思うとんさって。

小僧さん達ゃ小僧さん達で、

檀家から今日(きゅう)は、

お餅の沢山(よんにゅう)上がってきたあ、

あいば食べたいなあ。

さぞ、お餅は美味(おい)しかろうなあて、

ほんに思うとったて。

そいぎねぇ、

あの、和尚さんがねぇ、

小僧が寝っぎんとにゃあ、食びゅう、

て思(おめ)ぇおんさったて。

そいぎぃ、

「もう、小僧どんは用事終わったから、休んで良かよう」

て、夜になって、和尚さんの声のかかった。

そいぎ和尚さんなねぇ、

小僧、寝たかなあ、と思うて、見んしゃったぎぃ、

皆、ようーして寝たごと様子ばみとどけてから、

火鉢に網ばのせて、お餅ば焼きおんさったて。

あったぎ、

一方、小僧達は小僧達で、

和尚さんな、お餅は一人(ひとい)で食ぶっとやろうかあ、

と思うとっち、

一人(ひとい)の小僧さんがとてーも、知恵のあんさったとて。

そいぎぃ、

「チョッとばっかい、あの、行たて、

いっちょないとん、お餅にあいついて来(き)ゅうかあ」

て、言うて、その小僧さんが、仲間も一緒に呼んで、起こして、

和尚さんの部屋に、

「和尚さん、和尚。今晩は」て、言うたぎぃ、

「冗談(じょうたん)のごと、

お前(まい)達ゃ、まあーだ寝とらんじゃったかあ」て、言うなり、

灰の中にお

餅の焼けとっとを、こう隠しんしさったて。

そいぎぃ、

「和尚さん、私(あたい)どま忘れ物(もん)しとったけん、

和尚さんに言わんばらんじゃったあ」て言う

て、

「何(なん)ばやー」て、言うたぎぃ、

「チョッと側に来て話さんぎわからん」ち言(ゅ)うて、

和尚さんから、この火鉢の、火鉢を借りて、

「和尚さんねぇ、

昨日(きのう)、私(あたい)がズーッと行きよったもん。

そして、そけぇ橋のあったさい」て。

そいぎパーッて出して、こうして上げてみたぎぃ、

「あらっ。和尚さん、こけぇ餅のあったあ」

ち言(ゅ)うて、小僧さんなその餅を、まいっちょ弟ん小僧にやって、

「その橋を渡って、またズーッと行たて、

嘉瀬ん村(佐賀市嘉瀬町)ん家(うち)に、ヒョッと私が、

『今晩は―』」ち言(ゅ)うて、

「寄ったあ」ち言(ゅ)うて、火箸をさしたぎぃ、

またブスーとして上げてみたぎぃ、また餅やったて。

「あら、和尚さん。こけも餅のあったあ」ち言(ゅ)うて、

また次の、あの、兄弟小僧に渡(わち)ゃあたあ。

「そうしてまた、ズーッと行きおったぎねぇ、小母さんの、

『小僧さんよう、小僧さんよう』て、呼びんさんもんじゃいけん、

ほんな行きおんさっ時、チョッと立ち戻って上げてみたぎぃ、

また餅やった。

そいぎ和尚さんな顔は、青う白(じろ)なって、

「俺が餅は、全部(しっきゃ)あどめいち食う、いち食う」

ち言(ゅ)うて、青う白なっといさったいどん、

「ああ、良かったです。

頓智ある小僧さんな、いっちょいっちょ焼けたお餅を、

灰の中に火箸を突っ込んで、とうとう和尚さんな食べられんごと、

小僧さん達がいただいてしもうたあーて。

チャンチャン。

[五三三 焼餅和尚]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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