嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

こけぇも

ある村に恐ろしかけちん坊の長者さんがおらしたちゅう。

そして、ある日、

年頃十五、六にもなるごたっ若(わっ)か者(もん)が、

下男に雇われたて。

そして、

この下男はねぇ、

「五年、お家(うち)で働かさせてください」

ち言(ゆ)うことで、そこに雇われたちゅうもんねぇ。

あったいどん、

もう朝から晩まで骨身を惜まず、まあ良く働く男やったてぇ。

そうして、

月日のたっとは早かちゅうもんねぇ。

何時(いつ)んはじゃい、もう期限のじきくっごといちなったてぇ。

そいぎぃ、

この長者さんなけちかったもんじゃい、この男にねぇ、

ありゃあ、もう五年も働(はたり)ゃあてくいたけん

沢山(よんにゅう)給料ばやらんばらんて、

今になってみたぎその給料くるっとが借しゅういちなったて。

そいもんじゃい、

「こりゃあ何(なん)じゃい難題ば言うてみんばにゃあ」

ち言(ゆ)うて、難題ば持ちかけらした。

その難題はねぇ、

「お前(まり)ゃあ、

明日(あした)で年期のきるっごとちぃ(接頭語的な用法)なったあ」

て。

「そいけん、最後に良か仕事ばしてもらわんばらん。

そいはねぇ、

俺(おい)が買(こ)うておきたか品物のいっちょあったい。

そいば求めて来てくれんかあ」て言うて、その言んしゃったて。

「そいば買うて来てくれんば、賃金も払われんばーい」と言うて。

「そん代(か)わりねぇ、そいば買うて来てくるっぎぃ」

ち言(ゅ)うて、十両のお金ばやんしゃったてぇ。

「そりゃあねぇ、その一つはねぇ、難しかこと」て。

「一石六斗の鳥(とい)の欲しかあ」て、言んしゃったて。

「そいから、まあーいっちょはね、

七里の酒ちゅうとば買うて来て欲しか。

そいから、

まあーいっちょあっとは、叩かじも鳴っ太鼓(ちゃあこ)の欲しかあ」

て。

「この三つば明日(あした)までに、ぜひ買うて来てくいろう」

て、そがん言んしゃったて。

そうしてさ、

この下男に、

「三つの物を揃(そろ)えた時には、

三つどめお前の買うて来(き)ゆっぎぃ、

私がお前に、十両を骨折い賃にやっ」て。

「給金の他にかててやっ」

て、長者さんがぎゃんまで言うた。

長者の言わすとば考えてみっぎぃ、

世の中(なき)ゃなかごとばあっかい言んしゃんにゃあ、と思うて、

下男な正直真っ当で、この家で働くばっかいじゃっけん、

チョッと探しゆんむああ、て思うたいどん、

出かけんことにゃわからーん、と思うてねぇ、

ズーッと、下男な行たて、

まず太鼓屋ちゅう太鼓屋ば尋ねてみよーう、

と思うて太鼓屋に、

「こなた太鼓屋でしょう。叩かじも鳴っ太鼓ばください」

て、言うたぎぃ、

恐ろしか笑われたて。

「叩かんでも鳴っ太鼓があんもんかあ」て、言わるっ。

ほんなこて、店ごとに笑わるっもんで、

ああ、五年はただ働きにちぃなっばーい。

ほんに考ゆっぎ考ゆっほど悔しか。

とても叩かじにゃあ太鼓は鳴んみゃあ、て思うてね、

ああ、神さんにお頼みすっか、

神さんばいっちょ拝んでから、

また今度(こんだ)あ次んとば探してみゅう、と思うて、

神社(じんじゃ)のあっ所さい行たて、

「いっちょないとん適(かな)えてください。

ただ一つでもいいから、あの願いを適えてください」

ち言(ゅ)うて、一心に拝みよったて。

そうして、

拝(おご)うでからお宮さんの石段ば下って行きよったぎぃ、

境内で将棋しょん者(もん)のおったてじゃんもんねぇ。

将棋ば囲んで一心にしょっ人のあったちゅう。

下男もこいば見おったぎねぇ、

つい、一石六斗の鳥て、もうそいば一石六斗の鳥、

どがんとやろうかにゃあ、と思うもんじゃい、

ちい呟(つぶや)いたぎぃ、

将棋しおった者の一(ひと)人(い)がねぇ、

「鳩鳩二羽。鳩鳩二羽」

て、言うて、駒(こま)ばペチャッて、打ったて。

そいぎぃ、

そん時ねぇ、下男は考えたてぇ。

八斗(はと)、八斗、八斗、八斗、て、聞こえたちゅうもん。

そいぎぃ、

ああ、こりゃあ、一石六斗て。

八斗、八斗で、二つばいっしょにすっぎ一石六斗じゃ。

ああ、こぎゃんことたい、と思いついたて。

鳩は八斗じゃっもんと思うて、

二羽、この鳩ば買(こ)うてみゅう、と思うたぎぃ、

元気が付(ち)いて、

神さんのお授けかもわからんと思うて、元気が出てねぇ、

鳩ば二羽買うて行きよった。

鳥籠(かご)に入れて。

そのヒントでねぇ、ズーッと行きよったぎぃ、

ああ、こぎゃん当い前考ゆっぎようなかにゃあ。

そいぎぃ、

濁り酒、酒屋のあっ所(とこ)、濁り酒ちゅうとのあろう。

二里と五里とで二・五里。二・五里て言わるっ。

そいぎぃ、七里の酒になっ。

こう思(おめ)ぇついたて。

「ああ、やっぱい神さんのお授け」て言うて、

濁り酒もねぇ、一升買(こ)うたて。

そうして、

まあ、二つで良か良か、と思うて、

まあ、二つ揃うたけん、幾らないとん銭(ぜん)な貰わるっ、

と思うて、トボトボ行きよったぎぃ、

道々、叩かんてん鳴る太鼓ちゅうぎぃ、どがんとやろうかにゃあ、

と思うて、行きおったぎぃ、

道端の木に熊蜂の巣のブラ下っとったちゅうもん。

あったぎぃ、

こいば見てねぇ、

蜂ば太鼓ん中(なき)ゃあ入(い)れたこんなあ、

て思(おめ)ぇ付(ち)いたもんじゃい、

さっき買(こ)うた鳥屋にまた引き返ってばい、

そうして

太鼓に似た鳥籠ば買うて、

そうして、その、今、あの、熊蜂のおった所さい来て、

鳥籠ん中(なき)ゃあ熊蜂ば入れて、

紙ばこれ、貼つけんば同しこと、て思うたもんじゃい、

糊で鳥籠に

そこん辺(たい)の家(うち)の者(もん)に貼りつてもろうた。

そうして、

熊蜂の入(はい)った鳥籠ばしっかい抱えて、

その今まで勤めとった長者さんの家(うち)さい帰って来たて。

長者さんな、

「待っとったぞうー」て、言うてねぇ、待っとらしたて。

とても、あの男は幾ら気の利いとっても、見つけゆんみゃあ。

家(うち)で働くばかいやったけん、て思うとらしたと。

あったぎぃ、その三つは揃えて差し出したちゅうもんねぇ。

鳩二羽と、濁り酒ば一升と、鳥籠ば。

あったぎぃ、長者さんの言わすことにゃ、

理屈ば聞いて、

「二つは、わけなく良かねぇ」て。

「こりや、良かいどん、叩かじも鳴る太鼓はとてもなかったろう」

て、こぎゃん言わした。

あったぎぃ、

その鳥籠の太鼓のごとしたとば見て、

「こいが太鼓じゃあ」て言うて、下男が差し出(じ)ゃあたぎぃ、

長者さんなそいば見て、

「こりゃあ、何事(にゃあごと)なかあ。

こりゃあ、ただの鳥籠たい」ち言(ゅ)う。

「あいどん、振ってみんさい」

て、その下男が言うたもんじゃい、

左右にブラブラって、振らしたぎ大事(ううごと)じゃったてぇ。

中の熊蜂は一時(いっとき)ばかいはもう、

ブンブン、ブンブンすんもんじゃあ、

叩かじも紙がバンバン、バンバン鳴ったてぇ。

あったいどん、

余(あんま)い振いよらしたぎ紙の破れて、

蜂がそっから飛び出(じ)ゃあてねぇ、

長者さんなもう、顔中蜂に刺されて、

「『泣き面(つら)に蜂』ちゅうたあ、このことばーい。

五年の給金と十両もちぃやらんばらーん」

て言うて、泣きべそかかしたちゅうばい。

チャンチャン。

[五二四 殿様の難題=打たぬ太鼓(AT四六五、八七五、CF.AT九二一)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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