嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある村で、暖かいお彼岸の日でした。

ポカポカ日で、

「寒さ暑さも彼岸まで」ち言(ゅ)うて、暖かな日和でした。

ヒョッと道ば見てみよったぎぃ、

クニャクニャしてお寺詣りしおん者のあったて。

(お彼岸にゃ、誰(だい)でんお寺詣りですもんね。)

良う、こうして見てみたぎぃ、蒟蒻(こんにゃく)どんじゃったて。

そいぎぃ、見おったとは誰かちゅうぎぃ、

豆腐どんじゃったてじゃんもん。

「やあー、蒟蒻どん。今日(きゅう)はまた、何処(どこ)行きー」

て、声をかけたぎぃ、

蒟蒻は澄まんして、

「私(わて)かあ。お寺どんお詣りしたら、

ちぃっと豆腐どんのごと、そぎゃん白うないどませんかと思うて、

お詣りしよっ」て、こう言うたて。

あったぎぃ、

豆腐どんのもう笑(わる)うて、もう笑いの止まらんじゃったて。

「蒟蒻どん、もうやめとけぇ、やめとけぇ。

お前(まい)さんなあ、灰汁(あく)ちゅうとで固まっとろうがあ。

お前さんのごと、そぎゃん灰汁で固まったもんな、

白うはならん、ならん。そがん、白うはならん。

もう、お寺詣(みゃ)あはやめたがまし」

て、こう豆腐どんが言うよったもんじゃっけん、

蒟蒻どん、ムッとして、

「そいぎ豆腐どん。お前(まり)ゃ、何処(どこ)行き」

て、今度聞いたぎぃ、

「俺(おり)ゃ、お寺詣(まい)さい」

て、平気で言うたもんじゃっけん、蒟蒻が、

「冗談(じょうたん)じゃなか」と。

今度(こんだ)あ反対(はんたり)せせら笑うて、

「やめ、やめ。お前さんな苦汁(にがり)で固まっとろうがあ」て。

「お前さんな、苦汁のなかぎできんとばーい。そがん苦汁で固まっとの、『お寺さい詣(みゃ)った』ち言(ゅ)うて、

極楽さい行かるっもんやあ」て言うた。

「そうなあ」ち言(ゅ)うて、

豆腐と蒟蒻はそのままお寺詣(みゃ)あはせじ帰らしたちゅう。

そいばあっきゃ。

[五二〇 蒟蒻問答(AT九二四)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

標準語版 TOPへ