嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

八百屋さんがさ、お寺に注文取りに来たてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

和尚さんが頭に手を当てて、

とても心配そうにしとんしゃったてぇ。

そいぎぃ、

「和尚さん、何事(にゃあごと)あったかんたあ。何があったとう」

て聞いたら、和尚さんが言わすには、

「明日(あした)さ、本山から問答お客さんの来(こ)らすとたい。

私ゃ余(あんま)い学問もしとらんけん、そいが心配の種たい」

て、言んさった。

そいぎ

八百屋さんがさ、

「どんなもんじゃい知らんどん、私が代わってみゅうかあ」て。

「心配はまあ、しんさんなあ」て、言ったて。

「お前(まい)がやあ。お前が相手(やあて)になってくるっぎぃ、

良かばってん」て、

和尚さんから頼まれはちべぇして(スッカリ頼マレテ)、

八百屋さんが衣どん着て本堂に座っとんしゃったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

本山から偉かごたっ坊さんの見えんしゃって。

弟子どんも

沢山(よんにゅう)つんのうて来とんしゃってじゃんもんねぇ。

八百屋さんなビクビクほんなことはしおったてぇ。

そうして、

何(なん)を言い出すとじゃっかにゃあ、と思うとったぎぃ、

反対にこっちから言うてみゅう、と思うて、

頭を据(す)えて太かー声で、

「こくだいの、ひげなんぼん」

て、言うてみたちゅうもん。

そいぎ問答師さんな、向こうから問いかけたもんじゃっけん、

面(めん)食(く)ろって、どぎゃん考えてもちょっとわからーん。

どっから考えてもわからーん。

何(なん)の本に載っとったかにゃあ、と思うて、

丁寧に問うたてぇ。

すると八百屋さんがまた、

「うこむのなたー」

て、言うたちゅうもん。

「うこむのなたー。うこむのなたー」て、繰り返しても、

またわからん。

「ここの坊さんな大した学のある方じゃあ。

私(わし)どま及ばん、及ばん」ち言(ゅ)うて、

帰って行たてしみゃあいんさったてぇ。

そいぎぃ、

和尚さんが裏口から出て来て、

「ただ者(もん)のでくっこっちゃなかばーい、

八百屋さん。

お前(まい)さんな何処(どこ)で、ああいう難しか学問ばしたのまい」

て、聞きんさったぎぃ、

八百屋さんの言うことにゃ、

「何(なーん)のこってもなかと。

『こくだいの、げひぼんなんなん』ち言(ゅ)うとさ。

『こうむのなたー』て、言うとも、

『大黒の髭(ひげ)何本』ち言(ゅ)うとと、

『向こうの棚にある』て、言うとば、反対に言うたばっかいたい」

て、大笑いしたちゅう。

「反対に言うぎわからんもんねぇ」

「そぎゃんことじゃったかあ」ち言(ゅ)うて、

和尚さんのほんに感心しんさったて。

「お陰良かったあ」ち言(ゅ)うて、

胸ばなぜおろしんさったちゅうばい。

そいばあっきゃ。

[五二〇 蒟蒻問答(AT九二四)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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