嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 恐ろしかもう、

余(あんま)い太か話ばっかいすっとのおったちゅう。

その人の話ば聞くぎねぇ、

「象ば私(わし)ゃ生け捕りにして来たぞう」

て、言んしゃって。

そいぎぃ、

「何処(どけ)ぇ」

「余い太かけん持って来られん」

て、言うごたっふうじゃったて。

「そい、お前(まり)ゃあ、法螺ばっかい吹くねぇ。

あいどん、日本にゃ広かけんが、

まっと(モット)法螺吹きのおっばい。

日本一にお前(まい)もちぃないござい。

家の者に、ほんに法螺ばかい吹くごとなん」て。

「法螺ばかいお前(まい)の吹くぎぃ、ほんなこと人が信用ばせん」

て言うて、親達は、

「恐ろしか法螺ば吹くな」て。「法螺ば吹くことなん」て。

あったぎもう、

「余い法螺吹きの良うならんけん、

お前(まり)ゃ、寺の和尚さんに預けんばあ」ち言(ゅ)うて、

とうとう寺に預けられたちゅう。

そいぎぃ、その法螺吹きを寺に預けたぎぃ、

和尚さんな、

「法螺吹け。法螺吹け」て。

「法螺はほんに良かけんが、

もう小(こま)ーかことばっかい言うとよいか(ヨリモ)、

法螺吹きゃあ良か」て。

「ほんに太かことばっかい、吹きゆっしこ吹いてみろ」て。

「そうら、和尚さんの法螺ば、『吹け、吹け』て、言わるっぎぃ、

法螺は吹かれんごたっにゃあ」て、その男が言うたぎぃ、

「そんないば法螺吹き旅に出て来(こ)い。

そうして、修業して法螺吹きの名人になって来ーい」

て、言われたけん、行きよったて。

ところが、

宿賃も何(なーい)も飯代も持たじぃ。

そいぎぃ、

宿賃だっても何(なん)でじゃい言うて、

法螺吹いては、ただ泊まいしよらす。

また、お昼時なっぎぃ、

何てじゃい言うては法螺吹いて、飯代にすって、

いうごたっふうで行きよったぎぃ、

「あつけもう、ただ泊まいの、ただ食いの来(く)っけんか」

ち言(ゅ)うて、役人に訴えた者のあったて。

そいぎぃ、

役人が早速来て捕まえたて。

そいぎねぇ、

役人が捕まえたぎぃ、そいが殿さんの耳に入ってねぇ、

「そいば、その男、そぎゃん太か法螺ば吹きゆっとないば、

私(わし)もその法螺ば聞いてみゅうで、連れて来い」

て、言われたて。

そいぎぃ、

殿さんの前に法螺吹き男が連れ出された。

そいぎぃ、

「さあ、法螺ば吹け」て、殿さんの言んしゃったぎぃ、

「私(わし)が法螺ば吹こうでちゃね、

法螺吹き袋のなからんぎ吹かれん」て。

「役人に、そけぇ捕まっ時、役人が私(わし)の法螺吹き袋ば

おっ盗(と)ったあ」言うたて。

そいぎぃ、

「法螺吹き袋ばおっ盗ったないば、役人ば呼べ」

て言うて、言われたて。

そいぎぃ、

役人

が殿さんの御前(ごぜん)に来て、

「お前(まい)達ゃ、法螺吹き袋ばこの男に返せ」

て、言んしゃったぎぃ、

「そんな、法螺吹き袋ばおっ盗った覚えはないし、

どんな物が法螺吹き袋か知いもせん」言うてねぇ、

あの、皆が言うたて。

(そいぎぃ、嘘と法螺とは似通っとっちゅうですもんね。

こりゃもう、本当じゃないわけですよ。嘘ちゅうわけ。)

そいぎぃ、

「こん畜生、我が吹き袋ばおっ盗ってぇ、

お前達まで法螺吹くごとなって、

『そぎゃん法螺吹き袋は持たん』て言う。

お前達ゃ、何処(どけ)ぇないどんうせろう」て言うて、

その殿さんが

腹かきんさったて。

そいぎぃ、

「そいじゃねぇ、法螺吹きの袋ば親元に行たて取り戻して来い」

て、言んしゃったぎぃ、

「殿さん、殿さん。

法螺吹き袋ば私(わし)が取り寄せに行くよいか、

親をここに呼び寄せてください。

そうしてねぇ、

『ほんに法螺ば吹け吹け』て言うた、お寺の和尚さんのおんさるけん、

太ーかお寺ば、日本一のお寺ば作って

和尚さんばここに呼うでください」

て、言うたぎぃ、

まんまと殿さんなその法螺吹き男の口車に

ちい(接頭語的な用法)乗せられて、

親も駕籠もって呼び寄せ、

もう大きな寺ば作る普請にも取り掛かって、

もうまんまと男の法螺に殿さんまで引っ掛かんさったあ、ちゅうお話。

そいばあっきゃ。

[四九五 嘘の皮(AT一九二〇C)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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