嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

白石(佐賀県嬉野市白石町)にさ、

恐ろしゅうもう、ああ、

ちぃった燗(かん)のちいとらんとじゃなかろうか

というごと法螺吹きのおらしたて。

ところがあの、

ちぃっと向こん方の隣村にももう一(ひと)人(い)おらしたと、

何(なん)でんかんでん太う話すもんじゃっけん、

もう誰(だい)でん、面白かとば飛び越えて、

大風呂敷、てあだなのついとらした。

この二(ふちゃ)人(い)が出っかして

「西め(佐賀県嬉野市、小城市の以西)にはねぇ、

まあーだ、あすけは法螺吹きのおらすちゅうけん、

二人で今日は良か日和じゃんもん、遊びに行たてみゅうかあ」

て、言うて揃うて、西めの方さいやって来んしゃったて。

あったぎねぇ、折角暇つくって来た時ねぇ、

そけぇは子どんが番しとった。

そいぎぃ、

「父(とう)ちゃんなあ」て、聞いたぎぃ、

「留守だよう」て。

「何処(どけ)ぇ行かしたとう」て、言うたぎぃ、

「ああ、お爺ちゃん達ゃ知らんやったねぇ。

多良岳のさい、うっ転びよったけん線香ば三本持って、

つっかい棒しぎゃ行たとらすとう」

て、こぎゃん言んしゃったてねぇ。

「そいぎぃ、おっ母(か)さんなあ」

て、聞いたぎぃ、

「おっ母さんやあ。おっ母さんな、

昨日(きのう)風の酷かったもんじゃっけん、

天竺のうっぽげたもん。

そうして、ひっしゃげた(オシツブサレタ)たい。

あったぎいね、

布団針持って、

『あすこば早(はよ)う繕うとかんば、

雨のドンドンやって降っぎ大事(ううごと)ばい』て言うて、

布団針持って天竺さい行っとらすけん、今留守」

て言うもんね、その子が言うと。

「もうそりゃあ、二人の者な子どんでんぎゃん言うぎぃ、

親ないばどぎゃん太かことば言い出すかわからんにゃあ。

おどま、こりゃあの、ひんまくいろわからーん」

て、言うてね。

そいぎぃ、

「父ちゃんなまあーだ帰らっさんごとあっけんが、

あの、ちょっとばかいもう、お暇(いとま)しゅうかあ」

ち言(ゅ)うて、表(おもて)に出たぎねぇ、

子がねぇ、ヒョッと出てねぇ、

「姉(ねえ)ちゃん、姉ちゃん。

白石(佐賀県杵島郡)の西光寺の屋根の、

昨日の風で蜘蛛の巣に引っかかっとっ。

早(はよ)う、どぎゃんないとんしぎゃあ来(き)んしゃい」

て、そがん子供が言うたて。

そいぎぃ、二人の者ないよいよ恐ろしゃしてねぇ、

「早う帰らんば、こりゃんどがん太かこと言わるっかわからん。

私(わし)達ゃ、そぎゃんまで太かこと知らんもんにゃあ」

て言うて、帰らしたて。

そいばあっきゃ。

[四九二 法螺吹き童児(AT一九二〇)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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