嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とてもきれいか姉さんの京都におったてぇ。

ところが、

この姉さんの顔を二遍と見た者(もん)ななかった

ちゅうもんねぇ。

その姉さんば見ぎゃ行くぎぃ、

襖(ふすま)のスーッて開かって、

すぐパターンて閉まっ仕掛けばしてあった。

そうして、

ひと目ヒョロッて見たばかいで、千両銭(ぜん)ばやらんて。

そいぎねぇ、

きれいかにゃあ、ほんに美しかにゃあて、

いう噂がどぎゃん山ん中(なき)ゃあまででん広がってきた。

そいぎぃ、

田舎者(もん)のさ、

若(わっ)か者(もん)の

一遍そぎゃんきれいか姉さんない見てみたかにゃあ、

と思って、

我が草履(ぞうい)作いが仕事だったいどん、

そけぇ草履ばセッセと作って、

一目千両の銭ばやらんばらんない、

千両作らんば行かれんにゃあ、と思って、

千両お金ばこしらえて、

その姉さんば見ぎゃ行きんしゃったてぇ。

そいぎぃ、噂んごと襖のスーッて、開かってじゃんもん。

そいぎぃ、

姉さんが出て来んしゃったぎぃ、

姉さんなビックイすっごときれいかったて。

花んごときれいかったて。

もう若か者な見とれて、ボーッて、夢んごとして見とったあて。

そいどん、

じきパターンと、ちぃ閉まった。

あいどん、もう一遍見たかったて。

そいぎぃ、

また帰って草履ばコツコツ作って、千両稼いでまた、

その姉さん見ぎゃ行た。そいぎぃ、

スーッと開かって、またパターンと閉まった。

そうして、

ニコッて、今(こん)度(だ)あ姉さんも笑おうた。

そいぎぃ、

若か者なあきらめきれじぃ、そけぇおったちゅうもんねぇ。

ほんに、あぎゃんボーッて、なろうごと

きれいかとばまあ一遍見たか、と思うて、

また帰って千両草履作って溜めて、また見ぎゃ行たて。

そいぎまた、襖のスーッて開くて。姉さんが見ゆってじゃんもん。

そうして、

今度はねぇ、さきは笑うて見せたいどん、

「あんたは、

二遍どころか三度までも私を見に来てくださいましたなあ。

私が今度(こんだ)あ、あなたさんに惚れ込みましたよう」

て、そん姉さんが言うたて。

そいぎ

若か者な、

「冗談じゃなか。私ゃ、田舎の貧乏人ですたーい」て。

「金も持っとらんし、家もおろいかばい」て、言うたぎぃ、

「心配いりません」て。

「私に任せとってください。

千両ずつ取って沢山(よんにゅう)銭ば持っとっけん、

世話はいりません」

ち言(ゅ)うて、とうとうこの姉さんは若か者のお嫁さんになった。

そうして、

この若か者はねぇ、とうとう長者さんになったてばい。

そいばあっきゃ。

[四五五 一目千両(Cf.AT九一〇B)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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