嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいからぎゃん話もあっですよ。

「初夢」でねぇ。

そこの、何(なん)か、炭坑があったでしょう、

「大町炭坑(佐賀県杵島郡大町町)に、

ほーんに、銭なあ、金ほどき何(なーん)も、

土地一坪持たん者(もん)な、炭坑で働くとがいちばん良かあ」

て言うて、炭鉱で働きよったって。

そしたらねぇ、ある正月の初夢に、

奥さんが、

「私(わたし)も夕べは、

ほんっなごて今朝まで夢見よったあ」て。

そいぎー

檀那が、

「どんな夢見たみかあ」て、言うたから、

「そりゃあーねぇ、あんたが今朝坑内に下って、

そうして生き埋めになって、

もう私ゃ死んで帰って来たけん、

今が今まで目も覚むんまで泣きおった。」

て、言うてね、

「そいけん、そんな夢見たから、

今日(きゅう)は炭坑でも良う気をつけときんさいよう」

て言うて、奥さんが言ったらね。

その日の夕方ねぇ、ほんなごと落盤のしてね、

死んで帰って来たって。

「ありゃあ、あの夢は今日(きょう)の知らせじゃったあ」

ち言(ゅ)うて、奥さんが嘆き悲しんで、

その晩ねぇ、あの、通夜どんして、あくる日はお葬式をして、

そうして休んどったら、

ほんな生きとっと炭坑の下に、帽子どん被って行くようーな格好で、

「お前(まい)が初夢ば話(はに)ゃあたから、私(わし)ゃ死んだ。

木の皮ははぐなて、夢は話すなっ」て。

「こういう昔からの言い伝えがあったのに、

お前(まい)が初夢だからっちゅうて、

夢ば話したから、私(わし)ゃ落盤で死んだんじゃ」ち言(ゅ)う。

恐ろしか夢に出てきた男がブツブツ言うたって、

いう話もある夢の悪か話ゃ余(あんま)い話するぎいかん。

良か話も言わじ良かて。木の皮ははぐなて。

そいから餅は、なるべく焼くなて。

焼くぎ死んて。火であぶるごと。

(でも、焼き餅が美味(おい)しいですもんねぇ。)

餅は焼くな、木の皮ははぐな、夢は話すな。

三つの言い伝えがある。

[四四二 閻魔の失敗(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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