嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 あのねぇ、むかーしむかしね。

みんな大方、地獄行きばかいじやったて。

余(あんま)い良かことばした者のなかったじゃんねぇ。

そいぎぃ、

揃(そろ)いも揃うてねぇ、仲間同士、

余い時を違わじぃ死にんしゃったて。

一(ひと)人(り)は鍛冶(かじ)屋さんじゃったて。

一人はねぇ、薬屋さんじゃったて。

そいから

一人はね、手品師どんしおったてたいねぇ。

そいぎぃ、

三人連れ死にんしゃったて。

そうして、

ズーッと死出の山に行たて、閻魔さんから、

「お前(まい)達ゃあ、地獄行き」

て、言われんしゃったて。

そいぎぃ、地獄さい行かんばどがんしゅんなか。

まずは、

火の山地獄て。

火の山はもう、見渡す限りに熱かごたっとの、

こうこう燃えよっちゅうもんねぇ。

「あの火で大抵焼かれて、もう骨まで無(の)うなったばい」

て、言いよったぎぃ、

「いんにゃあ。骨ぐりゃあは残ろう」

て言うて、行きおったぎぃ、

「心配いらん、いらん」

て、手品師が言んしゃったて。

「僕の側にひっついといござい。火の山の所ば越えてみすっけん」

ち言(ゅ)うて、

「ジュゲムジュゲム、ムニャムニャムニャー。

ジュゲムジュゲム、ムニャムニャムニャー」

て、三遍ばっかい言うたぎぃ、

赤(あ)ーっか広ーかとの出てきて、

「サーアッ」て、いう間に広がって見えたて。

「さあー跳ぼう」ち言(ゅ)うて、

三人連れそいば跳び越えたぎぃ、

もう楽なことで面白かったて。

火の山、そぎゃんして越えたて。

そいぎぃ、

「今度(こんだ)あ、針(はい)の山で恐ろしゅう

針の山は痛いなあ。

針から刺されんばならん。もう心臓の止まろうだい、

そいで」て、皆行きよったぎぃ、

今度あ、鍛冶(かじ)屋さんが、

「良か、良か。世話さいな(心配スルナ)。

鉄の厚か草(ぞう)履(い)ば作ってくるっ」て。

「世話やかじ良か」て。

そいぎぃ、

「頼むばい」ち言(ゅ)うて、鉄の草履の三人前できてきた。

そいば履いて、

「ああ、面白や、面白や」で、唄どん歌いながら、

そこば渡って行きよったあーて。

「ほんに、こいどんま(コノ人達ハ)

もう、苦しっゃいっちょでんせじぃ、

どがん地獄やってでも三人な元気な者(もん)」

ち言(ゅ)うて、鬼も閻魔さんも言うおったちゅう。

「今度(こんだ)あ、煮えよっ、地獄の釜茹でもう、

いよいよもう、御陀仏で、お前(まい)達ゃもう、

骨までなかごとしてくるっ」

て、閻魔さんな腹かきんさったて。

そいぎぃ、

「世話焼きんさんなあ。世話焼きんさんなあ。

楽(らく)ちんで」て言うて、

「今度(こんだ)あ、俺(おれ)の番たいねぇ」

て、薬屋さんが、

口ん中からサラーッて、

何(なん)じゃい唾(つば)のごたっとば吐ぎんしゃったぎぃ、

お湯は冷(つめ)ーとう温(ぬる)ーるなって、

「もっと焚け。もっと焚け」ち言(ゅ)うて、

三人その地獄の釜ん中で言いおったて。

そいぎぃ、

閻魔さんの、

「あの、鬼ども。その三人は早(はよ)う、あちらに返せぇ。

もう地獄どめぇ、死人の中にいるんにゃ及ばん。

早う、おっこくい返せ(追イ返セ)。

人間世界さい返せぇ。そぎゃんとばおくに及ばん」て言うて、

「閻魔さんな、クルクルまいしとっ」て言うて、

三人は見事に娑婆さん帰って来(き)んさいたて。

そいばあっきゃ。

[四四二 閻魔の失敗]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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