嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 ある人がねぇ、大根蒔き来おったてぇ。

そいぎぃ、

「おはようございます」ち言(ゅ)うたぎねぇ、

あの、相手の人も、

「おはようございます」て、言うた拍子にゃ、

被っとった笠のパーッて、落ちたちゅうもん。

そいぎぃ、

おろちいて(急イデ)その、大根蒔き行きおったとの笠ば拾うてやったぎね、

喜んで、

「有難うございます。憚(はばか)りさま」ち言(ゅ)うて、

その、女の小母(おば)っちゃんは言うて、お礼ばさしたちゅう。

そいぎ

大根蒔き行きおったとはねぇ、チョッと立ち戻って、

今、笠ば拾うてやったぎぃ、葉ばかり(憚り)さまて、あいしったん(アノ人)な言うたねぇ。

今日は大根蒔きで折角行きおったいどん、種蒔き止みゅう」て。

「葉ばかいじゃ、どうしょうもなかあ」ち言(ゅ)うて、帰らしたちゅう。

そして、

あくる日、今(こん)度(だ)あ誰(だれ)にも会わんごと早(はよ)う行こう、と思うて、

早う起きて、次の朝、早う出かけたて。

そいぎ今(こん)度(ど)はねぇ、出かけたぎぃ、

男に会うたて。そいで、昨日(きのう)は折角大根ば良(ゆ)う蒔こうだい、

と思うて、行きおったぎぃ、

嬶が女の人に拾うてやったぎぃ、

「『葉ばかり(憚り)さま』て、言われたけん、

葉ばかいの大根のでくんないば、どがんしゅんなか(ドウシヨウモナイ)、

て思うて、今日(きゅう)今度あ、また出直(なや)あて来(き)おっ」

て言うて、話したぎぃ、

そいぎ

その男の人の、その話しばして、

「そがんたあ、根も葉もなか。縁起もんたあーい」て、言わしたて。

そいぎぃ、

その人と別れてから、また大根蒔き行きおった男は考えて、

「冗談(ぞうたん)のごと、『根も葉もなか』て、今朝は男の言わした。

そんないばもう、今年ゃ大根蒔きゃ、止みゅう」

ち言(ゅ)うて、とうとう大根な蒔かっさんやったて。

そいばっきゃ。

[四二五 御幣担ぎ(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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