嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村に良いお爺さんと悪いお爺さんとが、隣同士暮らしとったてぇ。良いお爺さんはねぇ、辻のお地蔵さんば毎朝毎朝、お詣りしよんさったてよ。

「どうか今日一日無事に働けますように、村に悪いことがありませんように」ち言(ゆ)うてねぇ、お拝みぎゃ行きよんさったて。そうしいぇねぇ、何時(いつ)もんごとさ、辻のお地蔵さんに拝みよんさったぎさ、お地蔵さんのばい、瓢箪(ひょうたん)ば差し出(じ)ゃあて、

「この瓢箪は正直な者(もん)が逆さにすっと、お米が幾らでん出てくっ」ち。「正直なお前に授ける」ち言(ゆ)うてねぇ、瓢箪ば差し出ゃあてくんさったてぇ。

そいぎぃ、お地蔵さんからその瓢箪ば頂いてねぇ、帰ってねぇ、そうして、正直なお爺さんが、

「有難うございます。そいじゃ」ち言(い)うて、頂いて帰ったその瓢箪ば我が家(え)帰って早速、逆さにして振んさいたぎさ、中からボロボロ、ボロボロ幾らでんお米の出てきたてやんもん。

そいぎぃ、こいば隣(とない)の悪かお爺さんの見よったてぇ。ありゃあ、うまいとこ隣の爺さんなしたにゃあ。俺(おい)にも地蔵が、瓢箪ば貸(き)ゃあてくるっぎ良かあいどん、て思うたい。まあ、隣から借ろうで思うてねぇ、

「あの、爺さんやあ。あんな良か物(もん)ばお地蔵さんから貰うたない。一時(いっとき)で良かけん、その瓢箪ば私(わし)に貸してくれー」て言うて、借いぎゃ来(き)んさいたて。そいぎぃ、正直(しょうじっ)か爺さんがねぇ、

「もう私ゃさ、一年分位のお米のちぃ出てきてくいたあ」て。「そい、貰うたとよう」て。「さあ、どうぞ」ち言(ゆ)うて、じき貸(き)ゃあてくいたて。

そいぎねぇ、その瓢箪ばねぇ、貸ゃあてもろうて意地の悪か爺さんなねぇ、ああ、うまいこといったあ、と思うて、ホクホク顔でさ、我が家(や)に帰って、もうじき太か莚(むしろ)ば広げて、沢山(よんにゅう)米ば出そうだいと思うて、

「さあ、米出ろ。たんと出ろ。お米出ろ。たんと出ろ」ち言(ゅ)うて、逆さにして振ったちゅうもん。

あったぎぃ、何(なーん)も出てこんちゅう。今度、瓢箪の尻ば叩いて、

「お米よ、たんと出ろ」て言うて、叩くいどん、一粒の米も出てこんて。叩(たち)ゃあても振っても同しことじゃったて。

そいぎねぇ、もう業(ごう)ばにやいたこの爺さんなさ、その瓢箪ば投げつけて、その辺(へん)の石に投げつけたぎぃ、粉々に割れたちゅうもん。あいどん、その瓢箪の中はさ、空っぽで何(なーん)も入っとらんやったてばい。

チャンチャン。

 〔四一二 米倉小盲(cf.AT五六三、五六四、七五〇A)(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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