嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

村にお姑さんとお嫁さんがおらしたと。そいどん、このね、お嫁さんな若(わっ)か人に似合わず恐ろしか信心深か人やったてよ。もう、一日終わって夕飯の後片付けどんすむぎんと、どぎゃんこってんお寺にお詣りしよんしゃったて。そいばお姑さんなほんに好きんしゃらんてじゃっもん。毎晩(みゃあばん)毎晩、詣(みゃ)あらんてちゃ良かとばて、こう腹ん中ゃ思うとらしたて。まっと沢山(よんにゅう)仕事ばきつかごと、草臥(くたぶ)るっごとしたこんな、お寺詣あはしわゆんみゃあだい。お寺詣あば止みゅうだーい、と思わしたもんじゃい、姑さんな嫁さんに一日の仕事ば沢山(よんにゅう)言いつけんさいたちゅう。そいでも、そいしこの仕事ばしてから、夜(よ)さいになっぎぃ、

「おっ母(か)さん、お寺にお詣りさしてもらいます。行たて来ます」ち言(ゅ)うて、また出かけんさっちゅう。

そいぎぃ、明日(あした)はまっと沢山(よんにゅう)仕事ばさせんば草臥んとみゆっ、と思うて、お姑さんなまた沢山仕事ばさすいどん、いっちょんその効き目のなし、夜になっぎぃ、

「お寺さい、お詣りさしてもらいます」ち言(ゅ)うて、出かけんさっちゅうもん。

そいぎもう、まーだ沢山、もう仕事ばしいきらんごと、のさんごとしてもらおうだい、と思うて、沢山(どっさい)今度は、お姑さんが仕事を宛ごうて、どがんしてもあいどん同(おな)しことて。どぎゃんこってん夜(よ)さいなっぎぃ、お寺詣(みゃ)あいば嫁さんのさすちゅう。

そいぎぃ、このお姑さんな考えらしたちゅう。ぎゃん、家(うち)の嫁はお寺にばっかい行くけん、嫁が寺から帰っ道に鬼の面ば被って、あつこの藪(やぶ)ばどぎゃんこってん通って帰って来(く)っけん、あすこん辺(たい)で威(おど)きゃあてくりゅうだーい、と思うてさ。そうして、藪ん所(とこれ)ぇ鬼の面ばつけて、お姑さんな待っとらしたちゅう。

あったぎばい、嫁さんの帰っとばそけぇで待っとらしたぎぃ、嫁さんな何(なーん)ても思わじぃ、

「有難(ありがた)かお説教やったあ」ち言(ゅ)うて、そうして、帰って来(き)よらしたぎぃ、そのお姑さんの、

「こりゃあ、待てぇ」て言うて、出て来(こ)らしたちゅうもんねぇ、鬼の面ば被ってぇ。そうして、言わすには、

「家(うち)ばう捨てたごとしてお寺さんばっかいはって行くお前のごたっとは、うち食うて殺すぞう。こりゃ」ち、言んさいたちゅう。

そいどん、その嫁さんなかねて信心しよらすもんじゃい、鬼の面にもいっちょん怖(えっ)しゃせじぃ、平気で家(うち)さい向こうて、スタコラスタコラ帰って来(こ)らすちゅうもんねぇ。そうして、家ん戸ば開けて、

「おっ母(か)さん、今帰りました」て、言うたいどん、返事のかかちゅうもんねぇ。そいぎぃ、ありゃあ、あの藪ん所で鬼の面ば被ったごと人ん声のしたとは、おっ母さんの声にソックイじゃったけん、ヒョッとすっぎあすけぇどまおってじゃなかろうかにゃあ、と思うて、藪ん所(とこ)さい行たてみんさったぎぃ、ほんんこておっ母さんのねぇ、その被っとった面ば取ろうで、しってんにってん(四苦八苦)、もうその藪ん所で、その面ば取らんば家(うち)さい帰にっかもんじゃっけん、取ろうでしよんさっちゅう。あいどん、いっちょん取れんちゅう。

そけぇ、嫁さんがおっ母さんば迎いぎゃ来て。そいぎ嫁さんの、

「おっ母っさんやろう」て、言うたぎぃ、

「あい」ち、言んさっもんで、

「おっ母さん、そのお面の取れんなたあ」て言うて、「そんなら、もういっちょお寺さんにお経さんば上げてもろうてみゅうか。そいぎぃ、取るっかわからんよう」て言うて、二人がかいでまたお寺さい夜更けに行きんさったて。

そうして、お姑さんば連れて行たて、和尚さんにお経さんば上げてもりゃいんしゃったて。あったぎねぇ、その鬼の面のガバッて、取れたてよう。良かったあ、と思うとったいどんねぇ、その鬼の面のねぇ、お姑さんの面の皮の肉の引っ付(ち)いたまま、血だらけなってその面ば取れたて。

それから先ゃねぇ、そのお寺で、

「このお面な預かっとこだーい。もう、おっ母さん、こぎゃん優しか嫁さんに、あぎゃんと威(おどか)かそうで思うたいすっぎいかんよう。あんたが先のもうなかけんが、お寺どん詣(みゃ)あって、後生を大事にしてが良かよう」て、和尚さんが言わしたてぇ。

そいぎぃ、今もお寺に、「肉付きの面」ち言(ゅ)うて、あってばい。

そいばあっきゃ。

〔三九八 肉付面(AT八三一)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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