嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかし。

宿屋にねぇ、懐具合の暖かそうな旅人が泊まったてぇ。そいぎぃ、その宿屋の主人が、ありゃあ、お金ばいっぱい持っとっお客さんばい、と思ったもんだから、今夜(こんにゃ)は、茗荷のご馳走ばいっぴゃい作らせて、お財布どまうつ忘れて帰んさっごとしゅうだーい、と思って、茗荷の膾(なます)に、茗荷のあえ物(もん)、茗荷の煮物に、お汁の実も茗荷ばあっかい食べさせんさったちゅうもんねぇ。ところがさ、その旅人は、

「明日(あした)は早たちで帰っけん」て言うて、いちばんに出発しんさったてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、宿屋の主人な、何(なん)じゃの金入れば忘れとっじゃろうだーい、と思って、部屋にとんで行ってみんさったと、何(なーん)いっちょ忘れた物のなかったちゅう。あいしこ(アルダケ)茗荷ば食べさせたいどん、なしじゃろうかにゃあとジーッと考えよってさ。

「ありゃあ、宿銭払うた忘れてちい帰した。ありゃ、こっちが大損した。まあー」ち言(ゅ)うて、ガックイしんさったちゅう。

そいばあっきゃ。

 〔三九二 茗荷女房〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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