嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

昔の者は薪を取ったい炭を焼いたい、そいぐりゃあなことしか仕事のなかったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、むかーしむかし、田舎に、三人の男兄弟のおんしゃったてぇ。そうしてもう、炭ば焼あーて、そいば売っぎんとにゃ、もうお金の溜っばかい。そいでもう、何処(どこ)ーにも遊びに行く所はないしぃ、山にばっかいかごうとったもんだから、いちばん上の兄さんが、

「何(なーん)も俺(おい)どませじぃ、あの世さい死んまでぎゃんして炭ば焼かんばらんない、お経さんないとん習いぎゃ行たてみゅうかあ」て言うて、話をしんさっ。

「そいも良かろう」て言うて、あとの二人も賛成して、

「そいぎぃ、代(かわ)い代(がわ)いお経さんば習いぎゃ行こう」て言うた。そいぎぃ、いちばん上の兄さんが、初め習いぎゃ行きんしゃったて。そいぎぃ、お寺の和尚さんがねぇ、

「闇にまぎれて、ナーマイダー。闇にまぎれて、ナーマイダー」て、教えんしゃったて。そいで、

「お経ば習うて来たばーい」

そいぎぃ、

「真ん中坊、行たてんさい」ち言(ゅ)うて、真ん中坊が今(こん)度(だ)あ交替して行きんしゃったちゅうもんねぇ。そいぎ今度は、

「ソロソロやって来て、ナーマイダー。ソロソロやって来て、ナーマイダー」て、こいしこ。そいぎねぇ、今度はいちばん下んとに、

「今度あ、お前の番ばい。行たて来い」て。

「行って来ます」ち言(ゅ)うて、行たて。そうして今度はねぇ、

「立ち上がって覗くよ穴覗き、ナーマイダーナーマイダー」て、習うて来たちゅうもんねぇ。そいぎんと、

「面々違うたとば習うたねぇ」て言うて。

「今夜雨も降って、もう炭焼くとも品切れじゃんもん。いっちょ、あいば、あの、お経ば習うて来たとば、復習しゅう。稽古しおらんぎうつ忘るっぼう」て、言うてから、三人で稽古しおらしたて。

そいぎぃ、ちょうどその晩がその晩でねぇ、恐ーろしか雨はどしゃ降り、お月さんはない、暗いしちゅうところで。ここは炭ばかい焼あて、お金の沢山(よんにゅう)銭ゃ溜っとっばい。いっちょ盗うでくりゅう、て思うて、泥棒がやって来とったちゅうもん。そいどん、泥棒の来とっことは知らじぃ、三人の兄弟は、

「そいぎぃ、始みゅうかあ」ち言(ゅ)うて、

「闇にまぎれて、ナーマイダー。闇にまぎれて、ナーマイダー」ち言(ゅ)うて、お経の稽古の始まった所へ、泥棒が来おったちゅうもん。

「ソロソロ来てみて、ナーマイダー。ソロソロやって来てみて、ナーマイダー」

そいぎぃ、いちばん末のまた、

「立ち上って覗くよ穴覗き、ナーマイダーナーマイダー」て言うて。

そういうことやったて。そいぎぃ、その泥棒さんがねぇ、真っ暗い闇にまぎれてそこまで辿って来たちゅうもんねぇ。そうして、立ち上がってジーッと穴ば見ゆうでしたぎぃ、

「ジーッと立ち上って穴覗き、ナーマイダー」

「ありゃ、俺(おい)がこけぇ来とっとば知っとっとばい。チャーアンと知っとらす。こりゃ、泥棒ないどん入(ひゃ)あっぎぃ、三人から大(うう)事(ごと)目(め)に合わさるっ」ち言(ゅ)うて、もう尻かがい上げてちん逃げたちゅう。

そいばあっきゃ。

〔三八二 鼠経(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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