嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある村に年の行き過ぎた娘さんがおったちゅう。

何(なーん)もそん人は不足はなかとないどん、

恐ろしか太か屁ばふっちゅうもんねぇ。

そいけん、嫁さんにくれて言う者(もん)のあったいどん、

なかなか娘さんな勇気を出して行く気のせんじゃったてぇ。

そのうちとうとう年の行き過ぎっごとなったてぇ。

そいぎ家(うち)ん者(もん)のねぇ、

「お前(まい)もぎゃんして、

『ぎゃん嫁に欲しい』て、言わるっ時、

行きよらんぎぃ、とうとう行かず後家になってちぃ(接頭語的な用法)しまうばい」て、

言わるっもんじゃい、

今度(こんだ)あ隣村に嫁入りの決まって行くごとなったちゅう。

そいぎ、嫁入る娘さんのおっ母(か)さんが、言うて聞かせらすには、

「お前(まえ)さんがねぇ、屁をひりたいと思うぎぃ、

チョッとやソッと誰(だい)にでん聞こゆっごと太か屁じゃっけん、

『チョッと私は用足(ようた)してもらいます』ち言(ゅ)うて、

厠(かわや)に行たて、そこで太か屁ばすませんさい」て。

「そいば忘れんごとしんさいよう」て言うて、聞かせとったて。

そうして、いよいよ祝言の時がきたて。

そいぎぃ、花嫁さんなどうやらね、祝言の席でモザアモザアして、

屁はふいとうなったてぇ。もよおすごとあんにゃあ、と思うたもんじゃい、

聟どんのおっ母(か)さんに、口ば耳ん所(とけ)ぇ持っていたて、

「おっ母さん、用足さしておくんなさい。

用足さしておくんなさい。」て言うて、頼ましたちゅう。

そいば聞いた聟さんのおっ母さんな、ビックイしてねぇ、

「まあーだ祝言の終わってもおらんとけぇ、

この花嫁の何(なん)ちゅうこっかあ」て言うて、

「こぎゃん、人のおらすとに

『用足すてんなんてん』言うて」と、

プンプンやって怒らしたと。

そがん聟さんのおっ母さん叱(くる)うて、腹かかした。

そいぎぃ、すったもんだしおったぎねぇ、

花嫁さんの屁の一時(いちどき)に爆発したちゅうもん。

そして、堪(こら)えとったもんじゃい、

太か太かその辺(へん)いっぴゃあ吹き飛ばすごと太うして、

その花聟さんのおっ母さんまで、庭さん吹き飛ばされんさいたあ。

そいぎねぇ、もう親戚の者(もん)も誰(だい)でんビックイして、花聟どんに、

「嫁に来たじきから庭さん吹き飛ばすごたっ花嫁さんな怖(えす)かあ」ち言(ゅ)うて、

「こりゃもう、明日(あした)は我が家(え)さい帰ってもらわんばあ」て、

言うことなって。そいぎぃ、聟さんのおっ母さんな、

「お前(まい)さんに、つんのうて行かじにゃあ。

チャアーンと届けて来(こ)んばのう」て、言うて、翌朝は、

荷物どんまとめて峠まで来(き)んさったてぇ。

あったぎぃねぇ、

その峠に米俵を大八車に積んだ若(わっ)か者(もん)どんが二(ふた)人(い)、

すぐ道端に生えとった梨の木ば見上げてさい、

梨の美味(うま)そうなのが実(な)っとんもんじゃい、

一生懸命ちぎろうですっばってん、ちぎいえんちゅうもん。

そいぎもう、さっきから坂の麓から見おったいどん、

ごっとい(絶エズ)ちぎろうでしおいどん、ちぎいえじおったと。

そけぇ、嫁さんな里さん返さるっとのおっ母さんと通いかかった。

そうして、若か者どんが言うには、

「その梨ばさっきからちぎおっどん、

いっちょん思うごとならん。

梨のむつかしゅうしてちぎぃえんどん、喉はカラカラさ」て。

「これをちぎってくいた者(もん)には米俵ぐりゃあやっても良か」て。

「全部(しっきゃ)あちぎってくるっぎぃ、

全部あどめ米俵ばやっよう。賭(か)けしゅう」て、

若(わっ)か者(もん)どんが言うたて。そいば聞いた嫁さんなねぇ、

「あの生(な)っとっ梨ばちぎっとぐりゃあ、屁のかっぱあ」て。

「あぎゃん木に実っとっ梨を落とすぐりゃあ、

屁のこっぱあ(屁ノ河童)」て、ちぃ言うたて。あったぎぃ、

「『屁のこっぱあ』て、何(なん)のことなあ」て、若か者の聞いたぎぃ、

「私(うち)ゃ、屁で落としゆっ」て、嫁さんの言う。

「そりゃあ、また珍しか。

あんならば、ほんなこてこの大八車の米俵、

木に生っと梨ば全(しっ)部(きゃ)あ落としてみぃ」て言うて、

若か者どんが若(わっ)か勢いで大八車を引いたとの言うたちゅうもん。

そいぎぃ、嫁さんの梨の木の方さい尻ばまくって、

一発力ば入れて、プーッて、屁ば、太うか屁ばひんさったて。

あったぎぃ、生(な)っとった梨のさい、

パラパラ、パラパラて、全部あどめ落ちてしもうたてばーい。

若か者どんは腰抜きゃあて、ビックイしたいどん、喜んだ喜こんだ。

「ああ、美味(うま)か梨の実にようよう(ヤット)あいつく」ち言(ゅ)うて、喜んだちゅう。そうして、

「約束どおり米俵をお前(まい)さんにやっ」て言うたぎぃ、聟さんのおっ母さんのねぇ、

「お前さんな、ぎゃーな力のあったとやあ。

あんない(ソレナラ)自分の里さい帰んに及ばん。

帰らじ家(うち)おってくれ」ち言(ゅ)うて、

米俵を貰うて、また元(もと)来た道を帰って来んさいたてばーい。

そいから先がさい、

あの屁の力ででん出来っごと易しかことば

「屁のこっぱ」と、いう言葉の流行したちゅう。

チャンチャン。

〔三七七 屁ひり嫁(cf.AT一四五〇)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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