嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ろしかふうけ者さんのおんしゃったてよう。

チョッとふうけ者もふうけ者で。

そいどん、嫁さんば取らじにゃあ、と思うてねぇ、

お嫁さんば取ってくんしゃったてぇ。

そいぎぃ、夏やったぎねぇ、

「お嫁さんの家(うち)に、お盆詣(みゃ)あどんせじにゃあ。

挨拶(あいさつ)にお盆に行かじにゃあ」ち、言われて、

「そいぎぃ」て言うて、お盆に、

お盆詣あぎゃあ行きんさったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、お嫁さんの家に行きんさったぎぃ、

「あなた、汗かきんさったろう。

お風呂の沸いとっけん、汗ばお風呂で流しんさーい」て、言われて、

「そうですかあ。そいぎぃ、お風呂ばいただきます」ち言(ゅ)うて、

お風呂に行たぎぃ、お風呂の熱かったちゅうもん。

そいぎねぇ、何時(いつ)も自分の家でお湯ばぬぶっ(ヌルクスル)時には、

「熱さあ」て、言うぎぃ、嫁さんが、おこうこで、

クルクルって、回すぎぃ冷ゆっけん。

そいぎぃ、良かとて、かねて聞いとったもんじゃい。

ここんと、ぎゃん湯の熱かけん、

おこうこのあんみゃあかねぇ、

と思うとったら、そけぇ、漬物樽の太(ふと)ーうかとの、

ちぃっと離れた所にあったけん、ああ、こいこい、

と思うて、漬物ば二本ばっかい持って来て、

そうして風呂ん中(なき)ゃあ入れて、

グルグル、グルグルって、やっぱい回しよったぎぃ、

風呂ん水ちぃっと温(ぬる)うできたて。

そいぎぃ、急いでその風呂に入(はい)んしゃったて。そうしてもう、

「いい気持ち。ああ、桑原、桑原」て言うて、

その漬物ばガリガリ、ガリガリ食べながら、

風呂(ふれ)ぇ入っとんしゃったて。

お家ん人はほんにひょんことば(不思議ナコトヲ)しよんさっ聟さん、

と思うとんしゃったて。そいぎ今(こん)度(だ)あ、

「そこん辺(たり)蚊の多かけん、

蚊帳ば吊らんばなたあ、もう寝られもん」ち言(ゅ)うて、

「夜(よ)さいも遅かけん、蚊帳ば引こうでぇ」て言うて、蚊帳ば吊んさったて。そして、

「休んでくんさーい」ち。そいぎぃ、

「はーい。そいじゃ、お休みなさい」て、

そのふうけ者さんの言うて、何処(どこ)ーでん入い所(どこ)のなかけん、

こりゃあ何処から入っとじゃろうかあ、と思うて、

グルグル回っても何処ーも入口(いいぐち)のなかったから、

ありゃ、こりゃ天上から入っとじゃろう、と思うて、

天上からヒョロッと入ったら、

吊っちゃ糸はつん切れて、そけぇ寝とんしゃったて。

そいぎ翌日、朝になってお家(うち)ん人の、

「ぎゃーんまでふうけとんしゃっ馬鹿たれと思わんじゃった。

ぎゃーん馬鹿者(もん)には、家の可愛いか娘ば嫁げぇにはやられん。

お前(まり)ゃあもう、娘は私(あたい)どんが家(うち)置(え)ぇとくっ。

お前(まい)の嫁くさんにはやらーん」て言うて、怒んさったと。

そいぎぃ、ショボショボと一(ひと)人(り)、

そのふうけ者さんは帰んさったて。

そうして、三夜待ちのあろうが、寄い方のあろうが、

仲間寄いのあろうが、我が家(え)に引き籠ってもう俺(おい)が嫁御は帰って来(こ)ん。

俺(おり)ゃあ、そがんふうけとっとやろうかにゃあ、

と思うて、頭かかえて寝とんしゃった。そいぎ友達が、

「お前(まい)、どがんしよっとやあ。

いっちょん顔見せんとがあ」て、訪ねて来たて。

「そいぎ実は、こうこう、こぎゃんふうなことのあって、

『そぎゃんふうけ者には、家の娘はやらん』ち言(ゅ)うて、嫁御は、

「もう来ん」ち言(ゅ)うて、泣き出(じ)ゃあたて。そいぎ友達は、

「そうやあ。良か良か、心配すんなあ。

俺どんが、連れ戻すけん」て言うて、

村長さん方の息子さんと、

そいから青年団長ば以前したごとあった息子さんと、

隣(とない)の息子さんと、仲間の三人で、

「そいぎぃ、嫁の家行たて、嫁御ば今(こん)度(だ)あ、

おどん(俺達)が連れて来(く)っばんのう」て言うて、行たて。そうして、

「ああ、暑うして汗かいたあ。

風呂どん沸いておんみゃあかあ」て言うて、まず言んさったぎぃ、

「はい。風呂沸あとっばんたあ」

「そいぎぃ、いただこうかあ」て言うて、

漬物桶から漬物ば出(じ)ゃあて来て、ちょうど馬鹿者がしたごと、

風呂の湯ば漬物でかき混ぜて、温(ぬる)うにゃあてから、

風呂ん中(なき)ゃあで漬物ばガリガリ食べんしゃったて。

「そいぎぃ、もう寝(に)ゅうかあ。

蚊帳どま早(はよ)う引いてくんさい」て言うて、

「今夜は泊まるばんたあ」て言うて、泊まんしゃったて。

蚊帳ば出(じ)ゃあて引きんさったぎぃ、

三人どめぇ揃うて蚊帳に入らじぃ、上ん方から、

ドブーッて、転うで寝んさったあ。

そいぎぃ、翌朝、お母さん達の床片付けに来て、

「あらー。あすこの辺(へん)では、

こがんとが習慣な所じゃろうかあ。

風呂は漬物でかき混ぜて入(い)っ。

そうして、蚊帳は上から入っごと、あぎゃん所変われば、

習慣も変わって、そがん習慣じゃった所じゃろうねぇ。

そいけん、あん人たんも、

聟さんもそぎゃんふうけてはおんしゃらんとばーい。

そいぎお前(まい)、娘、娘、あのこの人たん達の

『連れて行く』ち、言いござっけん、

連れられて行かい」て言うて、返しんしゃった。

友達も良か友達じゃったですねぇ。

こんな良(え)ぇ友達を持たんばらんですねぇ。

そいでもう、馬鹿聟さんも安心して、そいからは良かったそうです。

そいばっきゃ。

〔三四九B 沢庵風呂(AT一二六二)、三一二[笑話]飛び込み蚊帳の複合〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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