嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

庄屋さんが、京上いをしんさったてぇ。

そん時、村ん者(もん)に何(なん)じゃいみやげば持って行かんばねぇ、

と思うて、買(こ)うて来(き)んさいたとが、

蝋燭(ろうそく)じゃったちゅうもん。

そいどん、田舎者(もん)の、村ん者の蝋燭ちゅうとは、

一(ひと)人(い)も見たこともなし知らんじゃったちゅう。

そいぎねぇ、

「庄屋さん、きつかったろうのまい。

ご苦労さんじゃったねぇ。京都はきれいかったろう」て言うて、

もう帰んさったと聞いて、もう村ん者(もん)はじき、

翌日集まって来たてぇ。そいぎねぇ、庄屋さんはねぇ、

「ほんに悪かばってんねぇ、

こいば買(こ)うて来たあ」ち言(ゅ)うて、

村ん者に、あの、一本ずつやんしゃったてぇ。

そいぎ村ん者は、珍しかとば庄屋さんから貰うたとば、

「有難うございます。有難うございます」て言うて。

そうして持って帰ったいどん、

「こりゃあ、そいぎぃ、海ん物(もん)じゃい山ん物じゃい知らんどん、

何(なん)じゃろうかあ」と、言うことになったてぇ。

そうしてねぇ、

「ほんに私(わし)ゃ物知いぞ」て、威張いよった男のおったもんけん、

「あん人に聞くぎぃ、大概知っとらすばい」ち言(ゅ)うて、連れて来てねぇ、

「庄屋さんからこいば貰うたいどん、

こりゃあ、どがんすっぎ良かろうかあ」て言うて、聞いたて。

「そいやあ。そりゃ、

白ーしてほんに西洋のお菓子のごとしとっけん、

食べ物(もん)じゃろうたーい」て、

そん人が教えたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、誰(だい)でもねぇ、

「庄屋さんの折角の京みやげじゃっけん、

小(こも)う小う切って家(うち)の者全部(しっき)ゃあ戴だこうやっかあ」て言うて、

真名板ん上で小う小う切って、全部(しっき)ゃあ、

「余(あんま)い京のお菓子も美味(うも)うなかねぇ」ち言(ゅ)うて、

食べて仕舞(しみゃ)あいんしゃったて。

そけねぇ、今度はほんに気の利いた男がやって来たてぇ。そうして、

「庄屋さんのみやげは、

『蝋燭』ちゅうとてじゃったろう。」て、

もう鼻から自慢して言うたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「そう、こがんとば貰(もろ)うたとう」て言うて、

ちぃっと残っとっとば見せたて。そいぎぃ、その男は、

「一度見たことあっばーい。

そりゃねぇ、火ばつくっとう」て言うて、聞かせたて。

「そいどん、家(うち)ん者のこりゃあ、お菓子やろうだい。

食べ物じゃろうだい。誰(だい)でん、

小う小う切って、食べてしもうたあ」

「ありゃあ、大事(ううごと)大事。

そんないば腹ん中で火事のできて、腹ん中は焼くっばい。

早(はよ)う、水ば飲まじゃあ」て、言うことで、

皆ビックイして水ばガブガブ飲みじゃったてぇ。あいどん後ろから、

「ありゃあ、庄屋さん。火ばつくっとやったかんたあ」て、言うたら、

「そうじゃあ。ありゃあ、

火ば燈して部屋ば明かるくすっとやったとよう。

食ぶっとじゃなかあ」て聞いて、

のほほんと(ボーウトシテ)皆がえかーっと(ニッコリト)したとて。

そいばあっきゃ。

〔三二一 蝋燭蒲鉾(AT一三三九、cf.AT一二七〇)(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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