嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう世の中知らずの親子三人暮らしおったてぇ。

そいぎぃ、ある時ねぇ、

「人並み、私【あたい】どんもお伊勢参りばしゅうかあ」ち言【ゅ】うて、

出かけたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、宿屋に着いたぎさ、

「当家、名物の饅頭でございます」ち言【ゅ】うて、

女中さん達がお盆に盛って持って来たてじゃんもん。

そいぎねぇ、そいも、そいば食べ道も知らっさんじゃったあて。

そいぎぃ、一時【いっとき】ばっかいしおったぎぃ、

父【とう】ちゃんが天上さいほい上げて、パクッて、食べたて。

そいぎぃ、皆、子供と嫁さんもさ、

ほい投げちゃあ食べおったあ。

そいぎぃ、そいから先ゃねぇ、また次の宿に行たて泊まった。

そいぎぃ、その家ではさ、

「当家自慢の首巻き素麺でございます」て言うて、

素麺のご馳走を持って来たちゅうもん。そいぎねぇ、

「こりゃあまた、どがんして食ぶっとやろうかあ」て、

チョッと困ったあ。そいぎまた、父ちゃんがさ、

「さっからの女中さんは、『首巻き素麺』ち言【ゅ】うたろうが。

そいぎぃ、首にクルーッと、巻いて食ぶっとたーい」て言うて。

「ああ、そうかあ。こりゃ、『首巻き素麺』ち言【ゅ】うて、

首に巻いて食ぶっとたい」て言うて、半分なねぇ、

首に巻【み】ゃあて、その晩な泊まったちゅう。そうして、

「ぎゃん、お伊勢さん参【み】ゃありは、

わからんことばっかいじゃっぎもう、

家【うち】よいか良か所【とこ】はなか。

早【はよ】う帰ろーい」て言うて、

三人は急いで帰ったちゅう。

そいばあっきゃ。

〔三一四 芋転がし【AT一八二五】、三五一 首掛け素麺【cf.AT一二四六】類話の複合〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P464)

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