嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう井戸ん中【なき】ゃあ蛙さんがおったちゅう。そいぎぃ、

「井戸ん中ばっかいおっけん、

『井戸の中の蛙【かわず】大海を知らず』ち言【ゅ】うて、

私【わし】ゃ馬鹿にさるんもんなあ。

いっちょ広か大世間【ううぜけん】ば見ぎゃあ、

京見物に出かけよう」ち言【ゅ】うて、

ゴソゴソ、ピンピン跳ねて、山の上さい登って行たちゅう。

東の蛙さんは、そぎゃん。

そいから西の方の蛙さんはねぇ、

「沼の中ばっかい、山の際ばっかいおって、

山ばあっかい、そこの辺【たり】あっとは百姓家ばっかいじゃいどん、

世間の広かちゅう噂やっけん、

町どん眺めてみゅう」ち言【ゅ】うて、

また西ん方から山ん方をめざして、

ズーッとピンピンと登って来ましたちゅう。

そうして、山の天辺【てっぺん】に行たて見たぎねぇ、

我が家【え】ん辺【にき】と、

向こん方にこうして見たけど、いっちょん違わん。

もう百姓家の点々としてあって、山があると。

そいぎぃ、東の方の井戸の蛙も、

「我が家の辺【にき】といっちょでん違わん。

こりゃ、京見物も、京の都も我が家の辺【にき】と同【おな】しこと。

そいぎぃ、さようなら。もう帰ろう」て言うて、

両方にまた別れて帰りましたて。

ところがねぇ、蛙さんの目はさ、背中の後ろ、

後ろ向き付【ち】いとっけん、山の天辺に登ったちゃ、

我が家とこしか見えんじゃったったい。

ほんな京は見損なうて、二匹の蛙は我が村ば眺めて、そうして、

「同しこと。いっちょん違わんじゃったあ」ち言【ゅ】うて、帰らしたて。

そいばあっきゃ。

 〔三〇八 京の蛙大阪の蛙〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P463)

標準語版 TOPへ