嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

田舎じゃったてぇ。

ひとりのお百姓さんが、

田の草取いよったて。

そいぎぃ、田の草の生えた、生えた。

昼弁当ば食べて、

午後からも暑いのをかまわんで田の草を取いよって、

とうとう日が暮れたて。

そいでも、こうして見たら、

向こうの丘の上に山羊ばねぇ、

小さな子山羊ば繋【つに】ゃあで、

誰【だーい】も迎えに来【こ】じぃ、

繋がれたまましとったて。

そいぎ昔んこと、

肉なんか余【あんま】い

食べてことないもんだから、

この山羊ばいち【接頭語的な用法】

殺【これ】ぇて食べたこんな

美味【うま】かろうと思うともんだから、

もう帰りがけに、

田の草取って疲れもしとったけど、

百姓さんはこの山羊を殺して。

そうして腸【はらわた】とか、

頭とか、足とかは、

その辺【へん】に穴掘って

埋めて肉を持って帰ったて、

食べてしもうた。

そして、家【うち】にはねぇ、

籠【かご】に小鳥ば飼【こ】うとんしゃった。

小鳥が、ピ-ィピーィピ-ィ、

よう鳴いて、ほんに小鳥も可愛い。

よく面倒を、このお百姓さんみおんしゃったて。

そしたぎ翌日、隣【とない】のおんちゃんがやって来て、

「あつこに、あなた、

田の草取いに昨日【きのう】も行たかんたあ」て。

「行きましたよ」て。

「あつこの丘に、

山羊の子を繋【つに】ゃどったと無【の】うなった。

おらんごとなったあ。

そいぎぃ、誰聞いても

『知らん』て言んさっけん、

あなたに聞いたら知ってでもおんさんみゃあかあ、

と尋ねに来ました」て言うたら、

それ、籠に飼うとった小鳥がねぇ、

「それを家【うち】の大将が、

殺して肉ばっかい食べたよう」て言う。

【昔はねぇ、鳥は何でも人間の言葉ば言いおった。】

そいぎそいを聞いて、

隣のおんちゃんに、

この家【うち】の主人は、

「こんな、小鳥の言うような

言葉を信用すんもんがあんもんかあ。

こんなのを信用していかん。

また、この鳥はでたらめばっかい言うから。

こんなのは今まで、

大切に可愛がった恩も知らじぃ、

ぎゃんとはもう、飼わんで良か」ち言【ゅ】うて、

戸を開け放したら、

その小鳥はドンドン、ドンドン逃げていった。

そうして、自分達、集まる所に、

「鳥だけは、みんな集まってお出で。

話があるから」て。

この今まで農家の小父さんに飼われた犬がみんな、

鳥たち集めて、

「さあ、話すと言うのはねぇ、

人間の言う疑問に本当のことを教えるとしたら、

とんでもないことに出合うぞ」て。

「どうかすると命までないようになっ」ち。

「人間の言うたこと何【なん】でん本気になったい、

自分の言葉で何【なん】でも喋っていけないよ。

とんでもないからねぇ」て言うた。

誰か後ろにおるねぇ、と思うて、

この籠に飼われて放されとって、

その鳥がヒョッと後ろ見たら、

「お前【まい】は誰だ」ち言【ゅ】うたら、

「私【わし】は鸚鵡【おうむ】」ち、

鸚鵡がジーッと後ろいて聞きよった。そいぎぃ、

「お前【まい】も今、

私【わし】が言ったことわかったね。

人間から教えられただけ言うとくと、安全だ」て言うた。

それから先が、

鸚鵡は別なことは自分が可愛いもんだから、

絶対喋らん。

人間から教えられた

言葉しか喋らないようになったて、いう。

そいばっきゃ。

〔一七九  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P456)

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