嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

村にさ、何時【いつ】ーでん

夫婦喧嘩ばっかいすっ夫婦がおったちゅう。

朝昼晩、もう目の覚めて顔ば合わせじゃあがすっぎぃ、

どっちからともなく喧嘩ば始むって。

もう歯痒【はかい】かろうごと、

喧嘩ばあっかいしおっ。

そんな家【うち】だったてぇ。

そいぎぃ、ある時ねぇ、

聟さんが用事で町さん行たちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

聟さんも用事をすませて帰がたは遅【おす】うなって。

もう、夕方薄暮れんあった時分じゃったて。

そいで、

人気【ひとげ】のなか道ば

テクテク歩いて来おんしゃったぎぃ、

我が後ろから誰【だい】じゃいテクテク、

テクテク、ついて来【く】っごとあってじゃんもんねぇ。

ありゃあ、と思うて、

振り返って見っぎぃ、

こうして怖【えす】かねぇ、

と思うて、後ろば見てみんしゃっぎぃ、

小【こま】―か男のついて来おっちゅう。

ありゃあ、

あがんとば一寸法師ちゅうとばいにゃあ、

と思うて、見たぎぃ。

ほんなこて、何時【いつ】まっでんついて来っち。

そいぎぃ、気味の悪かにゃあ、

ぎゃん暗【くろ】うないがけぇ、

と思うて、早【はよ】う行かんば、

と思うて、早う急ぐぎぃ、

その一寸法師のごたっとも、

チョコチョコ、チョコチョコついて来んもん。

そうしてもう、急ぎ足で、

こりゃあいかん、と思うて、

その聟さんなもう、

走っごとして我が家【え】帰ったて。

そうして、戸口ば閉めてから、

こうして後ろば見っぎぃ、

我が家【え】の庭まで来てまあーだ

ジーッと見おっちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

いよいよその怖【えす】かごたっ気になって、嫁さんに、

「おーい。頼むばい。

酒ん燗【かん】ばつけてくいろう」ち言【ゅ】うて、

言んさったぎぃ、

何時【いつ】もないば嫁さんな何時【いつ】ーでん、

「じき、

『酒、酒』ち言【ゅ】うて」ち言【ゅ】うて、

ダラダラ、ダラダラ、

ぐずる者の、今夜はなしか、

じきお酒ばつけて持って来たて。

そいぎぃ、

聟さんなソーッと酒を飲みながら、

また外ば見てみたぎぃ、

やっぱい一寸法師のおったてぇ。

そいぎぃ、怖【えっ】しゃあしてさい、

「もう、お前【まい】もいっちょ飲めさい。

さあ、お前と一緒に飲もうでぇ」ち言【ゅ】うて、

夫婦で飲み出したて。

あったぎぃ、

そん一寸法師のごたっとの

「ムニャムニャ」独いごと言うちゅうもんねぇ。

そいばジーッと聞きおったぎぃねぇ、

「ありゃあ、ありゃありゃあ。

家【うち】ば間違えたっとじゃろうなあ。

ぎゃんこともあろうかあ。

何時【いつ】ーもここと思うとったいどん、

間違えとったばいなあ」て、

言いおったと思うぎぃ、

何時【いつ】のはじじゃい【何時ノ間ニ】

おらんごとなったて。

そいぎ聟さんの、

「おい、おい。

お前【まい】も今、戸の外で

『ブジャブジャ』言いおった声ば聞いたかあ」て、

嫁さんに聞いたぎぃ、

「いんにゃあ。何【なーん】も、

そぎゃん誰も話しおっとどま聞こえん。

知らんばい」て、言うたて。

そいぎ聟さんな、

町から帰り道、小【こま】んか男につけられてさ、

ほんなそこまで来て家【うち】ば

覗きおったとば話しんしゃったいどん、

「『こかあ、違う家【うち】じゃったあ』ち言【ゅ】うて、

いまさき【先刻】何処【どこ】さんじゃ行たよう」て、

言んしゃったて。

そいぎぃ、嫁さんもそんな話を聞いて、

「あらー。ほんに私ゃねぇ、

口答えばあっかいして、

ごめんなさいねぇ」て、

初めて聟さんに謝んしゃったて。

そうして、二【ふた】人【い】ゃあ仲良【ゆ】う、

そいから先ゃ暮らしんさったてよう。

そいばあっきゃ。

〔一七〇  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P447)

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