嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

あの、他所【よそ】に泊まってねぇ、

ズーッと仕事をして歩【さる】く者【もん】のあったてぇ。

あったぎねぇ、あの、ある所で一仕事してねぇ、

そこの家【うち】に泊まったてじゃもんねぇ。

そこは、まあーだ若夫婦のおんしゃったてぇ。

あったいどんねぇ、

その朝起きて裏の流れ川で顔どん洗【あろ】うて、

ヒュッと見んしゃったぎね、

裏の畑にホウズキの恐ーろしか赤【あこ】う

色づいたとん作っちゃたもんじゃっけん、

何【なん】げなしにホウズキばいっちょ取って。

そして、その、自分が、

あの、小さい時しおったように、

こう、よう周りを柔かくひねって、

そうして口の中にくるんで、そうして

「おはようございます」ち言【ゅ】うて、

お家【うち】の中【なき】ゃあ裏から入って。

そしたぎぃ、

そこの檀那も恐ーろしか腹かくちゅうもんねぇ。

「こりゃあ、お日さまの赤ん坊。

赤ん坊ば、お日さんの赤ん坊ばおっ盗【と】って、

お日さまの出んごとなあっぎぃ、

どぎゃんすんね」ち、恐―ろしゅう、

もう泣き狂いして腹かくちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

「あらー、これはお日さまの赤ん坊てや。

そりゃあ、ただの言い伝えで、

お日さまの日が東から西さい出んさっ」て、

言うてね、言うて聞かすっばってん、

「いんにゃこりゃあ、

お日さまの持ちんさった赤ん坊」て言うて、

聞くてじゃんもんね。

あったぎねぇ、

その人がそけぇおって、もうその一日、

余【あんま】いものも言われんごとして、

あの、おいずらかったいどん、

明日【あした】どまもうお暇【いとま】しゅう、

と思うとったぎねぇ、

その晩から雷さんの鳴ること鳴ること、

雨のもう、音立ててきたてねぇ。

そうしてねぇ、朝起きっ時のね、

もう家はひん流れて、

裏の川といっしょにひん流れて、

その泊まったその人が、

ようよう太か石の側にあったとに、

かがいちいて【シガミツイテ】そん人一【ひ】人【とい】助かった。

もう跡形もなかごとひん流れしもうとっ。

そいぎぃ、

「家【うち】ん者【もん】の悲しんだこと、

こりゃあ、

ホウズキはお日さんの赤ん坊じゃったかにゃあて、

その人は思うたあ」て、その言うて、

「他所【よそ】から

働きぎゃ行く者のぎゃん目に合【お】うたあ」て言うて、

旅先でしてくいたとのあった。

チャンチャン。

〔一六九  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P446)

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