嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかしねぇ。

もう人一倍恐ろーしか太か男のおった。

そいどん、その男は仕事すっとがもう、

ほんに飽【あ】きっぽーして、

大嫌いの怠【なま】け者【もん】。

そこのおっ母【か】さんの、

「お前【まり】ゃどま仕事どまいっちょんせじ、

太ーかううげのないして、

ちぃーた仕事ばせろ。

そげん太うしとって」ち言【ゆ】うて、

もうこれが来る日も小言ば言いおとった。

そいぎぃ、あの、男の言うことにゃ、

「仕事してが良かばってん、

なしーでん手の汚れたい着物汚れたいすっけんがもう、

いっちょんしゅうごとなかあ」て、

もうそぎゃん返事ばっかいじゃったけん、

お母さんはねぇ、とーうとう、

「お前のごたった養【やしに】ゃあきらん。

家【うち】から出てうせろ」て言うて、

そうして暇出しんさったて。

そいぎぃ、その男はブラブラブラその、

行きおったぎぃ、もう、

向こうん方に太ーか山の、

そけ腰掛けとったて。

もう、じきに遠ーか所【とっ】から馬のひずめの音のカパカパ、

カパカパカて、

もう十四、五人じゃい乗ったとの車どん引いて、

ガヤガヤガヤやって来て、

そうして道の横におっとば、

「邪魔だ、邪魔だ。のけろっ」て言うて、大声で。

そいぎ横さん避【よ】けておったぎぃ、

その十四、五人の群れのね、

山ん中【なき】ゃ、

山のほんな手前に来たごたっちゅうもんね。

そうして一【ひと】人【い】、

大将らしか男の山さん向かって、

何【なん】てじゃい

「ムニャムニャムニア、

ムニャムニャムニャア」て、言うたて。

あったぎねぇ、山のギィギィギィーちゅうて、

音たてて開いたてばあーい。

そいぎ男は手前ん方におって、

不思議かにゃあ、山て思うたったぎぃ、

て思うて、ボーッてしとったぎぃ、

その十四、五人がドヨドヨドヨその山ん中の

戸の開【や】いたとこん

中【なき】ゃあ入【ひゃあ】ってしもうた。

あったぎぃ、

一時【いーとき】ばっかいボーッて男の立っとたぎぃ、

じきそっから、もう沢山【よんにゅう】出て来て、

カラカラやって空の車を引いて、

また何処【どこ】さんじゃい行ってしもうた。

そいぎもう、後の方はもう戸の閉まっとった。

おかしかにゃあ、ここん中【なき】ゃあは、

何【なん】ば入れとったやろかにゃかにゃあ、

その男の思うたもんじゃ、その山ん手前におって、

「開け蜂。 開けこら馬。開け尼、おんぼろ開け」て言うて、

何【なん】やかやメチャクチャ言うてみたいどん、

その山んごとして

扉はいっちょん開かんちゅうもんねぇ。

そいぎねぇ、こりゃ開かんて、

あんたの叩【たち】ゃあても、

ごっとい開かん。困ったにゃあ、と思うて、

「開けば」て、言うたいしおっうち

「開けごま」て、ちぃ言うたち。

あったぎねぇ、

ギィーッて凄かごた音のして

山の神あさんの開【やあ】てくいた。

怖【えす】かにゃーて思うて、

ズーッと中さん入【ひゃ】あっていったぎ、

もう、ちかーと中【なき】ゃあ入ったらもう、

キンキラキンで目のくらむごと、

金銀の袋のそこん辺【た】りあったて。

ありゃあ、

今来たとはこいがことじゃったばいにゃあて、思うて。

そうしてねぇ、その中からほんに良かとば、

持ち得るだけ取っとけぇて。

そうして機嫌よく今度、

お母やんの、どがん来るやろうかにゃあ、

と思いながら、今度、

足取い軽く自分の家【うち】に着【ち】いたて。

あったぎねぇ、

おっ母【か】さんな日の浅かならないどん、

もう、ぎゃん下男どんして、

またボンヤリしとろうだい、と思うて、

ほんに世話を焼いて病気して寝とんしゃったて。

「ただいまあ」ち言【ゅ】うて、帰って来て、

「お母【か】やん、がん宝物【たからもん】ば

沢山【よんにゅう】持って来たばあーい」て言うて、

見せんばやったて。そいぎ、

おっ母【か】さんな床ん上に、やにはに起きて、

「宝どまいらん。

お前【まえ】よいか他に宝はなかあ」て。

「そぎゃん、宝どまいらん」て。

「もう、

『仕事せじ』て言うて、

叱【くる】って、お前のおらんじゃったぎぃ、

母【かあ】ちゃんな病気しとった」て。

「もう、宝よか何よか息子のお前【まい】が宝じゃけん、

何処【どけ】ぇも行たてくるんな」て、言んしゃったて。

「子よいか宝はなか」て。

そいばっきゃ。

〔一六八  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P445)

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