嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある島にねぇ、百姓すっ男と、

海に出て魚【さかな】捕る男とおったてぇ。

二人とも何時【いつ】も貧乏じゃったて。

そいで、

村ん者【もん】からのけ者【もん】にされとったてよう。

そいで、ある日、百姓がさ、

芋の草ば取ったぎぃ、後ろの方で、

「オーイ。オーイ」て、

誰【だい】じゃい呼びよったて。

そいで、フラッと振り向いたぎ

真っ白か着物【きもん】を着た

年寄【としお】いがおったてねぇ。

「この金壷はあなたに預けますよう。

家に持って帰って、

あなたの家【うち】の宝にしておんさい。

決して手離しちゃいけませんよ。

手離すとえらいことになりますからなあ」て、言ったて。

そうして、言ったかと思うぎぃ、

パッて、消えたちゅうもんねぇ。

百姓は、あの漁師さ

んが帰って来【く】んのを待っとったてぇ。

そいぎぃ、じき海から漁師さんが帰って来たて。

「今日は、

魚は一匹も捕れんじゃったばい」ち言【ゅ】うて、

ションボリ帰って来たて。

ところが、不思議なことに百姓と同じ金の壷を

持って来たあて。そいぎぃ、

二人が話し合ってみっぎぃ、

漁師さんも白ーか着物着た年寄いから貰うて、

「宝に大事にせろ」て、言われて、

「あのお方は、きっと神様じゃったばーい。

我が達が貧乏ばーっかいしおっに、

村ん者からのけ者にされとったもんじゃっけん、

可愛そうに思って恵んでくださったとばいにゃあ。

有難い、有難い」て、

二人【ふちゃい】どめ言うて、

大切にしとったて。

けれども、ぎゃんこと村中にじき

広がったちゅうもんねぇ。

そいぎさ、島の金持ちさんがやって来て、

「銭【ぜん】は幾らでん出すけん、

その金の壷ば売ってくいろう」て、言うたて。

「ただ、お前達持っとっとだけでは

何【なーん】もならんじゃろうがあ。

その壷ば売れ。売ったがましばい【良イゾ】」ち、

言うけれども、どぎゃん責めても百姓は、

「『そいば手離すっぎえらいことになる』て、

言われたけん、手離すわけにゃあいかーん」て言うて、

断わったて。そいで、

「俺【おい】が貰【もろ】うたとじゃっけん、

勝手にすっ。人のことは聞かん」て言うて。

そいぎ今度【こんだ】あ、

漁師さんの方にその金持ちが行たて、

「どうぞ、売ってくいろう。

ただ、持ったばっかいじゃ

何【なーん】にもならんじゃないか」て、

百姓に言うたごと言うたぎぃ、

「そうねぇ。

俺【おい】が貰【もろ】うたとじゃんもん、

勝手にすっばい。人んことは構うもんかあ」て言うて、

高【たっ】か銭【ぜん】で売ってしもうたて。

あったぎさ【トコロガネ】、

あくる日から恐ろしゅう

雨の酷う降って風も吹いてさ、

漁師さんの舟ば繋ぎに行ったぎねぇ、

「お前【まい】の家【うち】は

崖崩れで埋【う】まいよっばーい」ち言【ゅ】うて、

海岸に知らせに来た者もあったて。

漁師さんな、

「こりゃあ、大変。

あの壷ば売った金を人から

おっ盗【と】らるっ」ち言【ゅ】うて、

家【うち】ん中に入ろうでしたぎぃ、

まあーだ危なかとけぇ、

家ん中に入【はい】ったぎ物凄か音がして、

二回目の崖崩れで漁師さんな

埋まって死んでしもうたてぇ。

百姓は、あの漁師は

私の良かー仲間じゃったとけぇ、

「人ん言うことば聞かじ金の壷ば手離したけん、

神さんの罰が当たったとばい。

あの金の壷ば家【うち】ん宝にして、

やっぱい大事にとって置き、

守っとかんばにゃあ。

神さんの言いつけを守らんばにゃあ」て言うて、

島の飢饉の時でん、

この百姓は大切に守っとったため、

百姓の畑いっちょは毎年毎年、

豊作続きで幸せにそいからも暮らしたてよ。

そいばあっきゃ。

〔一六一  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P1)

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