嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいぎねぇ、むかーしむかし。

男が嫁さんも取らんで、

ひとり暮らしおったちゅう。

ところが、その男の欲たれていうたら、

もう、それこそ欲のきつうして、

【もう嫌【いや】ねぇ。】余【あんま】い欲の、

あぎゃんきつかぎ、

嫌ねていうくらいに、欲深の人がいたて。

そいぎある日のこと、

「家ん中で囲炉裏ば焚くぎ

焚物【たきもん】も散らかる、

家もすぼって。そしてもう、

焚物取いや行かんならんけん、

表【おもて】のお日さんの日【ひ】

向【なた】ぼっこは、もうただじゃっけん」ち言【ゅ】うて、

縁に日向ぼっこば毎日しおったてぇ。

そいぎいある日のこと、見知らん男が、

「私ゃ方々【ほうぼう】ぎゃんして、

回り歩きおっ」ち、言うとの来たもんで、

「そいぎぃ、

何【なん】じゃい売って歩きおっとか」と、聞いたら、

「いんにゃあ、売っても歩きおらん。

私ゃ、都に恐ろしゅう銭【ぜん】持ちじゃもん。

そいけん遊【あす】うどっても暮らさるっ」て言うて、

日向ぼっこしおっ欲張り男の隣【とない】の方に腰掛けたちゅう。そいぎぃ、

「そがーん四方八方歩【さる】きおんない、

大抵【たいちゃ】珍しい話ば

知っとろうだい」て、言うたら、

「知っとる、知っとる。あすこの話、ここの話。

良か話、悪か話、みたんなか話。

沢山【どーさい】知っとっよう」

「そいぎぃ、

そがんとば話【はに】ゃあて聞かせんさい」て言うて、

長々今日【きゅう】も、明日【あした】もて、

泊まりずくめで、

昼になっぎお天道さんの

出【ず】っぎ東ん方さい向【み】いて日向ぼっこ、

西さい傾きんさっぎ西ぼっこ、

ていうごとして、日向ぼっこしながら話を聞く。

そして、ヒョッとその男が言うには、

「お前【まり】ゃあ、

銭【ぜん】な欲しかとう」て言う。

「銭な欲しかくさい。

銭のつゆっとのあったらしかけん

【銭ン減ッテユクノガモッタイナイカラ】、

焚物も焚きえじぎゃんして遊【あす】うどっとたい」て。

「そいぎぃ、

銭儲けの良かーとば教【おそ】ゆうかあ」て、言うたて。

「そいこそ耳よいの話で、

もう聞きたかとのいちばん

聞きたかことじゃったたい。

そりゃ教えて。何【なん】てぇ、

どぎゃんと、どうすっこと」て言うて、

急【せき】立てて、

欲張りのその男が目を輝やかせて

聞いたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「あんたと二【ふちゃ】人【い】旅せんならん。

ここば三日ばかい、

ズーッと歩【あゆ】うで行くぎねぇ、

ある祠のあんもん。

そけぇ私【あたい】が財産の半分な埋【う】めとっ」て。

「そいぎぃ、そけぇ行たてねぇ、

我が持ったお金ばヒョローッて出【じ】ゃあてぇ、

『五文預けときます』ち言【ゅ】うて、

五文その塚ん中【なき】ゃあやっぎばい、

倍なってくっ。十文預くっぎねぇ、

二十文になっとよう」て言うて、

聞かせたてじゃもん。

「こりゃーあ良かこと。

そがーん良かことのあんない、

ぜひとも行きたか」

「行きたかねぇ、ほんなこてぇ。

行くまでは、手弁当持って

我が弁当こさえて行かんばらんよう。

私んともよ。そいこそ、

欲たれないば人んとまでこさゆうごとあんみゃあだい。

やめとったがましまし」て、

そん男は言うて。

「いんにゃあ、やめん。

いんにゃあ、あんたんとまで僕が弁当ば作って、

つんのうて【従ゴウテ】行く。

連れて行たてくんさい」ち言【ゅ】うて、

「このとおり」ち言【ゅ】うて、

地べた頭はすいつけて頼む。そいぎ男は、

「本気で頼みよんねぇ」て。

そいぎぃ、欲たれ男は、

「本当ようー」て、言うもんだから、

二人でテクテク旅がいよいよ始まりました。

そうして、ズーッとテクテク、テクテク、

「もういっちょ山越えたあ、

村ばいっちょ越えた」ち言【ゅ】うて、

ズーッと行きよったぎにゃあ、三日目にねぇ、

山ん道に差し掛った時、

「あれ、あれ」て言うごと、

炭焼きごたっとの、丸―か祠のあったちゅう、

丸―か。饅頭のごと土の

盛り上げた塚のあったたい。そいぎぃ、

「ここ、ここ。何【なーん】目印のなかいどん、

誰【だれ】でん言うことなんばい。

お前【まい】さんと私と

二【ふた】人【い】しかここは知らん。

そいぎねぇ、十文あぐっぎぃ、

二十文返ってくっとよう。

そいぎ十文あげてんしゃい」ち言【ゅ】うたぎぃ、

欲深か男が出して十文あげたて。

そいぎじき、

盆のごたっとのヒョローッと出てきて、

二十文出てきた。

「あら、ほんなことやったあ」ち。そいぎぃ、

「もうここばいっちょ教えてくいたけん、

あんたと別りゅう。バイバイ、さようなら。

あんたもう、回って歩【さる】きんさい。

私、家【うち】帰っ」ち言【ゅ】うて、

男と別れて帰った。

明日【あした】も来て、

毎日ここに通【かよ】おうと、

その男。ほんなこて柿の葉でもなし、

ほんな小判の二十枚あっそうです。

ああ、しめしめ。良かったにゃあ。

そいぎぃ、五文取って十五文、

今度【こんだ】あ、あげてみっぎ三十文になっ、

と思うて、また翌日も行ったてぇ、

十五文あげたぎぃ、

盆のヒョロッと出てきて、

三十文。ああ、ぎゃん良かことのほんにあった。

俺【おい】が全部【しっきゃ】ぼろ儲けせんば、

と思うて、自分の家帰っぎぃ、

朝も晩もお金の勘定すっぎ

三十文あっそうですもんねぇ。

良かったにゃあ、ほんに、

あぎゃん良かことなら、

やっぱいまた行かんば、と思うて、

また三十文持って出かけた。

今度【こんだ】あ、

三十文全部【しっきゃ】あやってみゅうでと思うて、

三十文あげた。六十文になってくっそうですもんね。

ああ、ほんに、こりゃあ良か。

もう寝ちゃおられん。

明日【あしちゃ】あは、

早【はよ】ーう起きて行こう、

と思うてねぇ。そいぎぃもう、

また百万円ていうごと、

銭【ぜん】持ちなりたかにゃあ、

と思うて、六十文あげた。

そいぎ百二十文も、

もう長【なご】うかかって勘定するぎぃ、

勘定間違いじゃなかったろうかにゃあ、

ていうごとして、返ってくって。

「良かーことば習うたにゃあ」て言うて、

帰って来たそうです。

そいぎぃ、だんだん欲出して、

隣【とない】のおんちゃんからも借って、

あるだけの金を借り集めて、そうして、

「恐ーろしかあの、長者さんて、

一遍いわれてみちゃあもんじゃい、

長者さんにないきらんことのあんもんか。

あぎゃん倍々なってくっとやっけん」ち言【ゅ】うて、

お金ば借り集めてまで持って来て、

その塚の所に来て、ヒョロッとあげたら、

ゾロゾロって、大風呂敷に入【い】いきらんごと

何【なん】じゃい出てきたちゅう。

そいぎぃ、よっこらしゃて、

かき集めて背負【かる】うて、

テクテク家帰った。

そうして、広げてズーッと数えて、

パサパサすっ。重かったとのパサパサすって。

前ん方、まあーだ金のごと光る。

後から数えると、

チョッと目【め】ぇかからんごと暗か時、

おかしかねぇ、

と思うて見っぎぃ、また光る。

前んとまでパサパサいちなる。

なしやろうかねぇ。おかしかねぇ、

と思うて、またもう、

広げ直してあせくって【カキ混ゼテ探ス】みたけど、

みーんな大風呂敷の中は、

木の葉ばっかい背負【かる】うて来【き】とったて。

おかーしかよう、と思うて、

息咳きってその塚ん所まで走って行ったら、

そこには塚も何【なーん】もなかった。

あら、ここん辺【たい】と思うとったん思うて、

立ち戻ってもない。

先さい行たても塚はない。

そいこそ狐につままれたごとしてねぇ、

今まで貰うたとは、みーんなお金だったのに、

今度はみーんな木の葉ばっかいだった。

そいで、その男は乞食んごとなって

すっからかんになってしもうたて。

余【あんま】い欲のきつかぎぃ、

ぎゃんして、いい加減でねぇ、

欲は、欲は持っとらんばらんどん、

余い酷う、一足飛びにあがーん欲ばり出したけんが、

身の破滅ちゅうた、

こういうことで、

すっからかんになんしゃったてよ。

そいまで。

〔一六〇  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P436)

標準語版 TOPへ