嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村にとても真面目な、

もう真面目でしかきゃあおりえん男がおったてぇ。

恐ろしか正直【しょうじっ】かったてぇ。

「嘘ばつけ」て、言うたっちゃ、この男は嘘ばつきえんちゅうもん。

そうして、

この男のねぇ、筵【むしろ】ば織っては、その筵ば役所に納めおったてぇ。

そうして、

真面目であるし、几帳面な男じゃったもんじゃっけん、

嫁さんと二【ふ】人【たい】連れでキチンキチン筵ば織って、

日にちの期限までにゃあ必ず役所に納めちゃあ暮らしおったて。

筵織いさんじゃったて。

そいところがねぇ、

役人がさい、その、どがんして織いおろうかにゃあ、と思うて、

時々やって見ぎゃ来【き】よったてじゃんもんねぇ。

他所【よそ】ではさ、ぎゃんして見ぎゃ行くぎ袖の下ちゅうて、

来んないば役人は貰【もり】ゃあよったとたい。

あったいどん、

この男は正直一本じゃっもんじゃい、

余分な銭【ぜん】なやいみちはいっちょん知らん。

何【なーん】も気にせじぃ、相変わらず真面目に筵ば織いよったて。

そいぎぃ、

冬の寒か日じゃったてじゃっもんねぇ。

そいでもう、

どうでもこうでも一分の長さも幅も違わんごと立派に織って役所に納めおったところが、

その筵のばーい、返ってきたちゅう。

あいども

良【ゆ】う見たてみたぎぃ、自分の納めた筵とはちょっと一目でわかっごと

違【ちご】うて、

荒っぽかし寸法も長【なん】かったい短【みし】かかったいしとっ筵じゃったて。

そいぎねぇ、

この正直男は役所さい行たて、

「こりゃあ、私が納めた物じゃありません」て、言うたて。

あったぎばい、

役所ではそいば役人が聞いてねぇ、

「納むったんびに、ぎゃん文句言うて来【く】っどん、

どうしてお前【まい】のとじゃなかて、わかっかあ」

て言うて叱る。

「あいどん、こりゃあ、私が織ったとと全然違うて、

荒かったい寸法も違ったいします」

て言うて、返事したて。

役人は、

「証拠もなかとけ、ツベコベ言うな。そぎゃんとが証拠になんもんかあ」

ち言【ゅ】うて、叱られてばっかいやったて。

そいぎぃ、

その男はほんなこて困っとったちゅうもん。

そいぎねぇ、

「証拠もなかとけ、ツベコベ言うな」て、言うたとば聞いたもんじゃい、

あんないば筵【むしろ】の隅の方に自分で小指ばちかっと傷つけて、

その血で、あの、血の付【ち】いた印に、赤【あこ】う印ばつけてばい、

この自分の織った筵に印つけて役所に出【じ】ゃあたて。

あったぎねぇ、

「ぎゃん【コンナニ】雑に織ったとばもう、受け取らん」ち言【ゅ】うて、

返って来たちゅうもん、違うとの。

そいぎ、

印ば見たぎ小指ば切って印つけたとじゃなかもんじゃい、

こりゃあもう、早【はよ】う言うてくうだいと思うて、その正直男は、

「私の納めた筵じゃなか」て。

「私はね、今度は自分の筵の印に、隅の方に小指を傷めた血で印をつけたあ」

て、言うて、申し出たぎぃ、

そいぎ

役人から恐ろしか、目から火の出【ず】っごと叱【くる】われたて。

「何【なん】だ、汚らわしか。血までつけたとか」て、言うてね、

叱われたばかいじゃなし打ち首になったてばーい。

あったぎねぇ、

その明くる日から、つっな返しよったその役人はねぇ、

何【なん】じゃい知れんごたっ熱病に罹【かか】って死んだて。

チャンチャン。

[一五三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P428)

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