嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかし。

何処【どーこ】ん家【うち】でん、もう七人も八人も沢山【よんにゅう】な所は、

十人も越えるて子どんが沢山【よんにゅう】おったてやんもんねぇ。

あったぎねぇ、

お寺にはさ、門の所に捨て子してやったて、男の子ば。

そいぎ和尚さんのねぇ、

「ありゃーあ、こけぇ男の子のば捨て子しちぇあっ。

『寺【うち】の小僧にしてくれ』て、言うことやろーう」て言うて、

その拾い上げて。

そうして、

その小僧さんば大事に大事に育てんさいたて。

そいぎぃ、

その小僧さんも何時【いつ】まーでん赤ちゃんのごとしとらじぃ、

遊【あす】うで歩【さる】くごとなったぎぃ、

近所の辺【にき】ん者【もん】のねぇ、

「あんたは捨て子たい」

て、わやく言うちゅうもん。

もう子どんがもう、じき何【なん】じゃいろいろして、あの、

遊んだいないたいしっぎぃ、

「捨てー子。捨てー子」ち言【ゅ】うて、わやく言う。

そいぎ

和尚さんの耳にまで、その捨て子ちゅうとの聞こえたて。

そいぎぃ、

この子がズーッと寺【うち】に置いとくとは、

捨て子て、お寺の子じゃなかて。お前【まり】ゃあ、拾われたったあ、

て言わるっごとなって、将来のために良【ゆ】うなかろーう、

て思いんさいたもんじゃいけん。

その子を呼んで、

「お前【まい】もだいぶん大きゅうなったなあ。

こんなに大きくなったけんねぇ、

こけぇおっぎぃ、皆から

『捨てー子。捨てー子』て、あぎゃん悪口ば言わるっ。

こいが一生、お前さんのためにゃあならんけんが、

いっちょ暇ばくるっけん何処【どけ】ないとん行たて、

そうして幸せに暮らせぇ」

て、和尚さんの言んさったて。

そして和尚さんなねぇ、

「何【なーん】もこけぇ餞別してくるっとのなかいどん、

こけぇ金の玉ば大事かとば持っとっ。この金の玉ば餞別にやっ。

しかしねぇ、

この金の玉は、お前の命ば危なか時しきゃ使うことなんばい。

何時【いつ】もかつも使うことなん」

て、こぎゃん言んさいたて。

そいぎぃ、

「有難うございました」

て言うて、その捨て子は、お寺から暇貰【もろ】うて出て行たて。

そうして、

ズーッと行きよったぎ日の暮れたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

「ごめんくださーい。私【わたし】を、あの、

当てもなくこうして旅をしている者【もん】ですが、今夜一晩泊めてください」

て言うたぎぃ、

そこの家【うち】ん者は、

「いんにゃあ。この村はねぇ、

他所【よそ】の者【もん】を泊むっことなん規則のあっ。泊められん」

て、断わんさっ。

そいぎまた、

隣に行たても同【おな】しこと言わるっばいにゃあ、と思うて、

「今晩一晩、軒下でん良かけん泊めてください」て言うて。

「いんにゃあ、他所の者は泊むっことなんていう規則じゃっけん、

規則はもう、守らんばあ、人から憎まるっ。

何処【どけ】ぇじゃい行たてください。

他所ん村さい行たでください」

と、何処に行っても泊めてくるっちゅう者はなかった。

ああ、ああ、野宿ばしせんぎぃ、家【いえ】の中【なき】ゃあ寝られんばーい、

と思うとったいどん、

村はずれに恐【おっ】ろしか蔵まで、三つも蔵のある

太【ふと】―か家【いえ】のあったけん、

ぎゃーん太か家ないば何処【どけ】ぇないとん泊めてくんさっばーいと、

何処ん隅ない寝先【ねさき】ゃああんもん、

と思って、トントーン、トントーンて、

戸ば叩【たち】ゃあたぎ中から若【わーっ】か男の出て来たて。

そうして、

「私【わたし】は旅の者【もん】ですが、一晩どうーかお泊めください」

ち言【ゅ】うたぎぃ、

「入【はい】れ、入れ。入れ」

ち言【ゅ】うて、喜んだごたふうで中【なき】あ入れてくいた。

良かったあ、と思うて、

そうして二人で、

「飯食うかあ」ち言【ゅ】うて、

「私【わし】もまあーだ飯前じゃあ」ち言【ゅ】うて、

二人【ふたい】でご飯も食べたて。

そうしてねぇ、

一晩泊まったけん、あくる日なったぎぃ、

「私【わし】ゃあ、釣りに行くから、

お前【まい】、家【うち】の留守番しとってくれー」

て、その男はさっさと出て行くて。

留守番しとけぇ、て言われて、大きか家【うち】てじゃんねぇ。

そがんして

三日も四日も五日も、毎日毎日釣りに行く、釣りに行く」ちて、

朝早【はよ】うから男は弁当持って出かけた。

そいぎぃ、

十日ぐらい経った時にねぇ、

「お前【まい】も、ぎゃん広か家【うち】、

たった一人【ひとい】じゃ徒然【とうぜん】なかろう」て。

「そいけんねぇ、こけぇ、蔵のほら、家【うち】ゃ三つもあろうがあ。

その内、二つは一の蔵と二の蔵は見て良かーあ。

あいどん三の蔵は、絶対開けて見っことはなんよ。

三の蔵しゃが見んぎぃ、一の蔵も二の蔵もそぎゃんことは見物して、

一日暮らしやい」

て言うて、その男は、たったとまた釣りしぎゃ行ってしもうたて。

そいぎ蔵は見て良かてじゃんもん、

て思うて、一の蔵ば開けたぎぃ、

もう昔の道具の、その蔵いっぱぇ積めてあってじゃんもんねぇ。

もう茣蓙【ござ】であろうが、椀・家具類であろうが、

もう高【たか】かたかばんのご膳であろうが、

もう昔【むかーし】の古道具のいーっぱい詰っとったて。

こうして見よったぎ

懐かしかごと品物【しなもん】ばっかいあったて。

そいぎぃ、

そいば見て今度【こんだ】あ二の蔵ば開けたて。

その蔵ば開けたぎねぇ、ビックイしたて。

二の蔵は天井につかゆっごとねぇ、小判の詰っとったてよう。

二の蔵には小判の詰っとったて。ピカピカしおったてぇ。

気色にお金持ちよう、と思うてねぇ、見て、

そこば閉めてからね、

三の蔵は開くっことなんてじゃったけん、

泊めてまでもろうて親切してもろうたもん。ここは開けてみんみゃあては、

思うたいどん、見んなと言わるっぎ見たかとが人間の常じゃいもんじゃいなあ、

と思うてねぇ、ほんなこと母屋さいこう行きよったいどん、

何【なーん】もおっ盗いしゃあがせんぎ悪かことあんみゃーあ。

ただ見っばかいないよかろーう、

と思うてね、ちーっと【少シハ】手をかけたぎぃ、もう開からんちゅうもん。

そいぎもう、

渾身の力ばいれて、ギャーッて力ばしんしゃったぎぃ、

ギュギュ、ギュギュて、開かったて。

ところがねぇ、

そこ見んさいたぎねぇ、お堂の中はねぇ、水の溜まっとった。

その水はどすー黒か水てじゃんもん。

波いっちょでん立ちよらん、青【あーお】かごとどす黒かごと澄みちぎった水の、

こうードローッと溜まっとって。

あらー、ここは土蔵の中【なき】ゃあ水の溜まっよーう、

と思うて、その小僧さんはねぇ、一時【いっとき】つき立っとっ。

あったぎねぇ、

その水の溜まっとっ真ん中ん辺【たい】のね、

水ともコブコブ、コブコブて、盛り上がったて。

盛り上がったて見たぎぃ、龍の口どん、グアーッとのし上がってきてね、

口ば真っ赤な口ば、アーッて開けて、

今ーにもその、人呑みにしゅうでてばかい、その見よっ小僧さんば。

そいぎぃ、

こりゃあ命が危ない、と思った拍子、

懐に手をやってその玉をパーアッと、咄嗟にやった。投げんしゃったて。

あったぎまたねぇ、

そのドロドロ水の溜まっとの

今まで怖【えす】か物のごたっとの顔ばできたとは何【なーん】も見えじぃ、

元のごーうと静けさじゃったてぇ。

そいぎねぇ、

おもえさい帰ってねぇ、怖【えす】か目合【お】うたーあ、

と思うてね、夕方になってその釣りぎゃ行た男が帰って来たちゅうもん。

そいぎぃ、

正直か者【もん】だから、

「私【あたし】が見るなと言われとったあの土蔵を開けた。

そいぎぃ、ビックイしましたあ。

あの水ん中から龍が出てきましたあ」

て、ここまで話【はに】ゃあたぎな、その釣りに行った男はね、

「ああ、あれかーあ。

あれは私【わし】の親父だよ。

実は毎朝毎朝、あの、魚捕りに行くとは親父に食べさせる餌さ捕いぎゃ行きおっばい。

何【なーに】もお金は土蔵いっぴゃああって、銭【ぜん】は稼がじ良かーあて、

道具も沢山【よんにゅう】あっ。何【なーん】もいらんね。

あいどん、親父には毎日、新しか魚ば食わせんばらん。

あいどん、

お前【まえ】さんが、あの、玉ば投げてくいたてやろう。

あの玉ば持っとっぎぃ、百年ぐりゃあはもう、顔でん出さんよう。

もうこいで世話なしやった。

ここにお前さんと、今からユックイ暮らそう。

お前【まい】、私【わし】の弟になってくれや」

て言うてね、

そいから先ゃ、

そこの家【うち】でその若か者と二人【ふたり】、あの、

暮らすことになったて、いうことです。

そういうこと。

そいばあっきゃ。

[一三二  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P402)

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