嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村に、お宮さんを建てたい、

お寺さんを建てたいすっ恐ーろしか腕の良かあー大工さんのおらしたてぇ。

あいどん、

この大工さんな腕も人並み以上じゃったいどん、心がまた正直真っ当で、

ほんーに良か人やったけん、村ん者【もん】皆から、

「棟梁さん。棟梁さん」ち言【ゅ】うち、尊敬されといさいた。

そいぎぃ、

この棟梁さんの西隣【どない】はねぇ、石屋さんじゃったてぇ。

ある年んこと、氏神さんの祭いの日に、

棟梁さん方【がち】ゃあ石屋さんが、お客に招【よ】ばれて来て、

酒飲みが始まったて。

そうしたところが、

座敷で二【ふ】人【たい】が何【なん】のことからじゃったいどん、

喧嘩し始めたて。

石屋が棟梁さんに、

「お前【まい】さんの家【うち】の床の間に、

『家【いえ】の宝てぇろう』て言うて、おろーいか箱ば飾っとった、

ありゃあ何【なん】なあ。

あの箱の中【なき】ゃあボロ切れどんが入っとろだあーい」

て、言うたとが始まいじゃったて、その喧嘩の始まいが。

そいぎぃ、

「棟梁さん、何【なん】てぇ、

あぎゃん中に、お不動さんの目ん玉の入【い】っとっとけぇ、

家【うち】の者【もん】でん箱ん中、

『見っことなん』ち言【ゆ】うて、大切しとっとばい」

そいぎ

石屋は石屋で、酒に酔うもんじゃい、

「あらーあ。おかしかボロ切れの見られんもんじゃい」

て言うて、けなすもんじゃあ、

棟梁さんも、何時【いつ】も良か人やったいどん、ムーッとして、

お前【まえ】さんのごとして朝から酒飲んで、

ブラブラして石の音どまいっちょでんさせじぃ、

村ん者【もん】の笑い者【もん】ばい」

て、またぎゃん言わしたぎぃ、

また石屋が腹きゃあた。

「そんないば、あの家宝の目ん玉を見せろう。

そいぎ我がも安心すっ」

ち言【ゅ】うて、言うたら、

大工さんな、

「あいば見っぎぃ、罰かぶって。昔から、先祖から言われとっ」

て。

そいぎ

石屋は、また、

「箱ん中もほんなこて目ん玉じゃい何じゃいわからん」

て。

「ボロ切れじゃい、ほんのこてわからん。そいけん見せろ、見せろ」

て、

「ヤイヤイ」言う。

そのうち、

切れ物までそうつきゃあ【ウロツクセ】て、棟梁さんと石屋さんが喧嘩したてぇ。

そうして、

とうとう棟梁さんは、人間の良かもんじゃい

石屋に負けて、開くっ段になったて。

「あの箱ば開くっぎ目の潰【つぶ】るっちゅうことで、言うことも聞かじぃ、

床の間に飾ってあった家宝の箱ば持って来たぎぃ、

石屋が蓋【ふた】ばパーッと開けた。

あったぎ

中には恐―ろしか見事な瑪瑙【めのう】の玉のチャアーンと収められとったて。

石屋はその玉ばさい、右手に持ったり左手に持ったりして、手玉に取っとったて。

あったぎぃ、

その玉のねぇ、窓ばひっ破って庭の池の中【なき】ゃあ転がって、

おっこちたてばい。

「ありゃあー。家宝さんの池ん中さい行きおらすたーい」

ち言【ゅ】うて。

そいぎぃ、

ビックイして石屋も、酔いの覚めたごと気の毒がったて。

あったいどん、

翌日、棟梁さんが池さらいばして、

「ああ、家の家宝じゃっけん取い出さんばあ」

て言うたいどん、どぎゃん探【さぎ】ゃあても、とうとう玉はなかったてばい。

あったいどん、

石屋は石屋で、あいから、

「目の痛い。目の痛い」て、来る日も来るも、

「目が痛い。目が痛い」ち言【ゆ】うて、

そうして

涙ポロポロして、目は冷やしよったいどん、

そいから先ゃ、とうとう盲になったちゅう。

チャンチャン。

[一三〇  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P400

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