嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある村に恐ーろしか流行【はやい】風邪の流行【はや】ってぇ。

誰【だい】でんもう、コンコン、コンコン

風邪ば引かん者【もん】ななかったちゅうもんねぇ。

死んでいく者も何人でんおったて。

あいどん、

お寺の和尚さんな

ほんにぎゃん死ん者のでくっぎ喜びんさろうだい、

ち言【ゅ】うごたふうに、誰【だい】か言うたぎぃ、

和尚さんの耳に入【はい】って、

「冗談のごと。村の、そぎゃん死んとば喜んじゃおらん」て。

「仕方なし引導渡しおいどん。

あいばもう、達者して生きて村の栄ゆっとがいちばん良か」て。

「そいぎ私がいっちょ、風邪引きの妙薬ば教【おそ】ゆうだーい」

て、和尚さんが言んしゃっごとなったあ。

「そいぎぃ、

和尚さんの『妙薬』ち言【ゅ】うとは、どがんとやろうかあ」

ち言【ゅ】うて、聞きんしゃったぎぃ、

「そりゃあのまい、山に生きとっ藤蔓の瘤のできたとのあっ。

その瘤のところば取って来て、

煎【せん】じて飲むぎんとにゃ風邪の治【ゆ】うなっ」

ち言【ゅ】うて、教【おそ】えんしゃったてぇ。

そいぎぃ、

「易しいこと」ち言【ゅ】うて、

誰【だい】でん山さん行たて、藤蔓の瘤のあっとば持って来て、

煎じて飲ませたて。

そいぎんとは、見事に風邪引きの治【ゆ】うなってじゃん。

恐ろしか熱出【じ】ゃあてもう、頭の上がらんちゅう者でん、

「あらっ、奇妙な妙薬で和尚さんのお陰、助かったあ」て、

言わん者ななかったあ。

そいぎぃ、

「和尚さんな万病でん治しんさっ」ち言【ゅ】うごといちなって、

ある者が、飼い馬の、

自分の家【うち】飼【こ】うとっ馬のおらんごとなったあて。

そいぎぃ、

和尚さんに、

「どがんしたこんな良かろうかあ」て、

今度【こんど】あ相談に行たぎぃ、

「藤蔓の瘤ば煎じて飲ますっぎ良かあ」て。

そいどん、

ちょうどそん頃は、

もう藤蔓の瘤どま目【め】ぇかかった時分じゃなかったて。

冬の雪の降る時分じゃったあ。

そいぎぃ、

馬ば捜しぎゃ、

馬のおらんごといちなって藤蔓ば飲まさりゃされんとけぇ、

まず馬ば捜【さぎ】ゃあて来【こ】んばねぇ、と思うて、

その馬方はもう、ドンドン、ドンドン山さい行たてぇ。

そいどん、

寒か冬んことで藤蔓はいっちょんなかちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

もっともっと行かんばと思うて、

二日も三日も、ズーッと山奥さい行たぎぃ、

五日目になったぎ馬のおったて。

そいぎぃ、藤蔓ば尋ねて行きおったぎぃ、馬のおったけん、

「やっぱい藤蔓の瘤と馬の関係のあったあ」ち言【ゅ】うて、

和尚さんに、

「お陰、馬の見つかった。藤蔓の瘤のお陰、馬の見つかったあ」

ち言【ゅ】うて、その馬方は和尚さんにお礼言いに行たて。

藤蔓の瘤は妙薬たい、ていう話、ねぇ。

そいばあっきゃ。

[一二一  本格昔話その]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P392)

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