嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 「同じ夢ば見せたお坊さん」て言うたあ、

話【はに】ゃあとらんでしょう、ね。

こいば話そうかあ、ね。

むかしねぇ。

恐ーろしか貧乏村があったてぇ。

小【こま】ーか村じゃったちゅうもん。

そこにお寺もなしぃ、お宮さんいっちょでんなかったあ。

あったいどんねぇ、

天神さんのお堂てん、

お地蔵さんのお堂ぐりゃあはあったてばーい。

そいぎねぇ、

恐ーろしか酷う雪の降った時さーあ、

何時【いつ】ーでん時々回って来きよんさったお坊さんの、

小ーかお坊さんの、その村に雪のぎゃん酷うか時、

回って歩【さる】きよんしゃったてぇ。

あったぎねぇ、

村ん者【もん】の正直【しょうじっ】か者【もん】ばっかい、

良か人間ばっかいじゃったもんじゃあ、

「ぎゃん冷【ひ】やか時【とけ】ぇ、坊さん、

有難【あいがと】うござんすっ。

ぎゃん時、巡【めぐ】って来んさって有難うござんすっ」

て言うて、お礼ば言いおったちゅう。

あったいどん、

雪の酷う降んもんじゃい、もう村のな、

「ぎゃん雪の酷か時ゃ、早【はよ】う寝たがまし」

ち言【ゅ】うて、じき寝たてぇ。

そうして床ん中でねぇ、

「あの坊さんな

何処【どこ】さんか泊まっ所【とこ】のあったろうかあ。

何処さん帰らしたろうなあ」

ち言【ゅ】うて、何処ん家の者【もん】でん

話ながら寝たちゅうばーい。

あったぎねぇ、

誰【だい】ーでんその晩な夢見たてぇ。

そうして

前の日は恐ろしゅう雪の大降りじゃったいどん、

朝から雪が止んで、もうキラキラすっごと

良か日和じゃったもんじゃあ、

誰【だい】ーでん雪除けば、雪ばはわきおったて。

そん時の話。

「夕べの夢は、思いもよらんごと

巡って来【き】んさった坊さんの夢ば見たーあ」

て、言うたぎぃ、

誰【だい】も、

「俺【おい】も、昨日【きのう】の坊さんの夢ば見たばーい。

誰も、お前【まい】さんもやーあ」て。

「うーん。坊さんのねぇ、

『辻ん所【とけ】ぇ来んさって、

こけぇお寺ば建ててくいやーい』て。

『こけぇ、お寺ば建ててくいやーい』て言うて、

言いよんさったあ。

そうして

雪の中【なき】ゃあ埋【う】まってさい、

お坊さんなそこで死んないたあ。

そいけん、

『ここ、辻には、あの、お堂ば建ててくいやーい。

先祖の全部【しっきゃ】あの、

こっから村ば守っごとしてやっけん、

是非、お堂ば建ててくいやい』て、

こがん夢ば見たあ。

ハッキィ声まで聞こえたあ」ち。

「俺【おい】も見た。俺も見た」て、

言う者【もん】ばかいやったて。

「そいぎ夢のほんなことじゃいどん、

その辻ん所【とけ】ぇ行たてみゅうかあ」

て、言うっことになってねぇ、

村ん者【もん】が揃【そる】うて

峠の辻に行たてみたちゅうもん。

あったぎねぇ、

雪の積もっとった所【とけ】ぇ、行たぎ雪の真っ白積もって、

何事【にゃあーごと】なかたーい。

ただ雪の積もってばかいたーい」て、誰【だい】ーでん言うて。

「あったいどん、不思議かったにゃあ」て、言うことで、

「そこん辺【たい】ば、そいぎ雪除けないどんしてみゅうかあ」

て言うて、見てみたぎねぇ、

黒ーか衣の裾【すそ】の見えおったてぇ。

「ありゃあ、ほんなこてこけぇほら、雪ば被って、あのお坊さんの、

こけぇうつ伏せになって大往生しとんさっ」

ち、言うちぇ村ん者【もん】はビックイしてねぇ、

「夕べ見た夢は、このお坊さんの村ん者【もん】に、

ぎゃん見せんさいたとばい。

あの小【こーま】かお坊さんの生き仏さんじゃったとばい。

こけぇ、そいぎお堂ば建てて、

お寺ば建てて祀らんぎぃ、村ん者【もん】は罰かぶっ」

て言うて、

全部【しっきゃ】あの者【もん】が、

その辻に三年がかいで立派なお寺のお堂ば建てんさいたてぇ。

そいから、この村は平和に栄えたてばい。

チャンチャン。

[一一九  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P390)

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