嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーし。

婆ちゃんが一【ひと】人【い】暮らししおんしゃった。

あったぎねぇ、

来る日も来る日も雨の降っちゅうもん。

こん夜は大雨じゃいわからーん。早【はよ】う寝んばあー、

と思うて、戸ば閉めたぎねぇ、

雨にじゅっくい濡れたきれーか姉さんの、

「お婆さん。今晩一晩泊めてください」て言うて、

入【はい】って来【き】んしゃったて。

そいぎ婆ちゃんなねぇ、

「あんたん泊まっとは良かいどん、

家【うち】ゃ布団の余分になかばあーい」て。

「食べ物もそがにゃ沢山【よんにゅう】は持たんとこれぇ」て、

言うたぎねぇ。

その娘さんの、

「心配はいらん。

私【あたし】がお御馳走をいっぱい持って来ました」

ち言【ゅ】うて、三段重ねの重箱ば

「ほらっ」ち言【ゅ】うて、出しんさった。

蓋【ふた】ば取ってみたぎねぇ、

もう今まで見たことなかごたあ、ご馳走の

いっぱいあったちゅうよう。

そいぎその、姉さんの訪ねて来たとこの婆ちゃんは、

重箱のご馳走ば空っぽになっごと食べんさいたて。

そして、

いよいよ寝る段になったぎぃ、

「さあー、お前さんどうすっ」て、

婆ちゃんな聞きんしゃったぎぃ、

「隣の部屋は空いとっですかあ」て言うて、聞きんしゃっけん、

「私【わたし】ゃ、何処【どけ】ぇでん良かいどん、

婆ちゃん早【はよ】う寝んさい」

て、その娘、女の人が言うて。

そうして、

「隣ゃねぇ、十二畳ぐりゃあはあっばい」

て、言んさっぎねぇ、

「十二畳あっぎ良かあー。多かすぎっとう。有難とう」

ち言【ゆ】うて、

「私【あたし】も休みます」ち言【ゅ】うて、

部屋に襖開けていったぎぃ、

じきグーグーグーグー恐ーろしか高【たっ】か鼾【いびき】きゃあて、

寝とんしゃった。

あぎゃん優ーしかごときれいーか女【おなご】に似合わんごと

鼾の高かようて、婆ちゃんも思うとらした。

そして、

ソーッと、おかしかにゃあ、

余【あんま】いやかまし伊やかましかごと鼾かくて思って、

お婆ちゃんなソーッと襖ば開けてみたぎビーックイ。

何【なん】なんやったろうかあ。お婆ちゃんが見たとはねぇ、

怖【えす】かごと太か大蛇の十二畳敷【じき】いっぴゃあ、

とぐろば巻【み】みゃあて、そーて寝とったて。

婆ちゃんな怖【えず】ーして、

もうそのまんまとんと寝えんじゃったいどん、

夜の明けたぎぃ、

夕べのきれーか姉【ねえ】さんが髪も立派に結って起きて来たて。

そうしてねぇ、

婆ちゃんなあぎゃん夕べは山ん中【なき】ゃあ、

確か大蛇の姿やったいどん、ぎゃんきれいかか娘になったよう、

と思うて、ジロージロー見よったぎね、

その泊まった姉さん懐から、桐の小箱ば出【じ】ゃあて、

「婆ちゃん。夕べは大変お世話になりましたあ。

一晩泊めてもろうて良かったあ。

あいどん、

私は正体ば覗かれたどん、ほんに嫌じゃった。

だけど泊めてくいたけん、これをお礼に差し上げます」

て言うて、桐の小箱ばその女の人はくいて、

何処【どこ】ともなく消えてしもうたて。

あいどん、

婆ちゃんのそいから先は、婆ちゃんの稲は良【ゆ】うでくっし、

麦も良うでくっし、一生婆ちゃんは困らじ暮らすことのできたて。

あいどん、子や孫の代になったぎぃ、また貧乏したちゅうばい。

そいばっきゃあ。

[一一六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P388)

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