嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ろしか温【ぬっ】か夏の前やった。

明神様に行くぎもう、明神様はねぇ、

高【たっ】っか所【とこ】で風が吹いてくんさっよ、

ソヨーソヨー、木も涼しかごと。

そいけん

誰【だい】ーでん明神さんに夏は夕涼みにぎゃ行きよった。

そいぎぃ、

その村にねぇ、富山の薬売いの来とったとな。

ぎゃん温かどんな、誰ーでん夕涼みしやもう、

明神さんに行きんしゃって。

そいぎ

私【わたい】も行たてみゅうだあて行たぎぃ、

なるほど涼しかちゅうもんねぇ。

そいどん、

一時【いっとき】すっぎ村ん者【もん】な

ドンドン、ドンドン早【はよ】う帰んさっ。

まいっとき【モウ少シ】おーぎ

涼んでぎゃん【コンナニ】良か所【とこ】なかとこれぇ、

と思うとったけど、

もう後も見んごとして皆ゾロゾロゾロ帰っ。

そいどん、

その薬屋さんなねぇ、ユックーイとしていちばーんもう、

村人の帰っ後からねぇ、帰って来よんしゃった。

あったぎねぇ、

明神さんの石段の下から三番目ばっかいに来た時に、

樽のごと太か大蛇の出てきたてばい。

そうして、

この薬【くすい】売いの男ばガブーッて、丸呑みしたて。

そいこそ声出す暇もなかった。

そうして

薬売いさんな、大蛇の腹の中【なき】ゃあおんさったて。

そいで腹ん中で、もう我が命ちゃおしみゃあて、もうたまらん、

て思うて、ジーッと考えよったぎぃ、

ああー、毒薬を我が懐【ふところ】ん中【なき】ゃ入れとったにゃあ。

こいばいっちょ、どうせ死ぬない、ここに振いちらかしてみゅう、

と思うて、

自分の懐から、その蛇の腹ん中で毒薬ば振いちらかした。

あーったぎ、

一時【いっとき】ばっかいしてね、

もうゴゾゴゾゴゾで我がまでも回るってじゃもんねぇ。

そうーして、ドスーンてしたぎぃ、もう、

その大蛇が下痢し始めて、

その下痢と一緒に薬【くすい】屋さんもまあーだ死なんうち、

谷さんゴローって、放り出されんしゃった。

ああー、世の中【なき】ゃ出たあ、助かったあ、

と思うて、そけぇ一【いっ】時【とき】、立っとんさったぎねぇ、

何【なん】じゃい樽【たる】んごと丸ーか筒の

わがと一緒にそこに出とっじゃあもんねぇ。

ありゃあ、こりゃ袋にゃあ、何の袋じゃろうかにゃ、

大蛇がこいもひん【接頭語的な用法】呑んどったとばい、

思うて、こうーして見よんしゃったぎぃ、

棒の先で触んさったぎぃ、

チャリンチャリンチャリンって、音んすっ。

ありゃあ、こりゃあ金物んごたあっ、と思うて、

よう見てみんしゃったぎぃ、そりゃ金袋やったて。

そいぎぃ、

その薬屋さんな、その金袋ば担いで

自分の宿しとっ所に帰って来【き】んしゃったて。

そいから先ゃその話のねぇ、村中に広がって、

私【わし】も大蛇に飲まれてみたかあ、

て思う者【もん】ばっかいで、青年どまあ、

明神様に夕涼み来て遅【おす】までおって、

「大蛇、来てくいてひん呑んでくれー。

大蛇、来てくいてひん呑んでくれー」

て、言う者ばかいやったいどん、

そいから先ゃ何【なーん】なーんも、

大蛇は死んどったもんじゃい、ひん呑む者はなかった。

そいばっきゃ。

[一一四  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P386)

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