嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしはねぇ。

人間の夫婦ちゅうもんな、

背中合わせにくっついとったてよう。

そいを神様がねぇ、一【ひと】人【い】一人丁寧に剥【はぎ】ゃあして。

もう神さんからみれば人間はわずかなもんじゃったけん、

天竺からお初穂のごと沢山の人間どもを、

フーて、吹き飛ばしんしゃったて。

そいぎぃ、

何万何千億ちゅう、そりゃあ数えきれんごとの人間の夫婦が、

フーて、吹き飛ばされたまま、もう地球上に落ちて来たてたいね。

そうして、人間ができたとよ。

とかろが、夫婦は背中合わせにくっついとったいどん、

我が嫁さんな何処【どけ】おいやろう、

我が聟さんな何処おってじゃいろう、わからんちゅう。

背中合わせじゃったけん。顔もわからん。

何【なーん】も知らんもんじゃい、お互いにわからじぃ。

そいで、

すぐ側に聟さんのおんしゃった時もあっ。

遠方に嫁さんのおんしゃった時もあったいしたちゅう。

そいぎぃ、

なかなか年頃になって、

「嫁取い時、聟さん見つけ時」と言うても、なかなか難しかったちゅう。

そいを一遍夫婦になった大人達が世話焼あて、

「そん人が良かろう。こん人が良かろう」て言うて、

良か塩梅【んびゃあ】とは引き合わせて夫婦にしおったいどん。

あいどん、

別れたいないたいしたちゅうたあ、

その時、背中合わせにしとった夫婦じゃなかった者が、じき別れたい、

またじき引っ付【ち】いたいすっことていうことばい。

そういう話のあっとよ。そういうことです。

[一一〇  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P383)

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