嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とても欲張りの婆さんがおらした。

その婆さんが、天気がいいし、

今日、お布団とんどん干して、

洗濯物【もん】いっぱいしようと思うて、

いっぱい表【おもて】に自分のシーツなど干しよったて。

あったぎぃ、

今まで見えんじゃったとの、

何処【どっ】からじゃい牛の一目散に走って来【く】っ

てじゃんもんね。

そうして、

洗濯物な自分のシーツをソーッと角に引っかけて、

ドンドンやって走って来っ。

そいぎ婆ちゃんな、我が今夜も寝んばらんもんと思うて、

「こりゃ、こりゃ、待て。この牛、こりゃ待て」

ち言【ゅ】うて、一生懸命、牛の後を追いかけて行たが、

なかなか牛が止まらん。

そうして、

とうとう善光寺様の門まで連れて行ってしもうた。

ありゃあ、

善光寺さんまではって来た、と思うて、

「こりゃあ、牛よ待て」と、言うたら、

お御堂の中へ入【はい】って、こうこうして見おったら、

ようようそこに入っとんさったて。

お経さんの上がいよった。

そいどん婆さんな、欲たれいっぺんで、

あのシーツは困ったにゃあ、

牛は何処【どこ】さい行たろうかにゃあ、と思うて、

お縁にドカッと腰掛けておったら、

木魚の音のコッコッ、コッコッてなって、

お経さんの始まった。

そいぎぃ、

フーッと、お御堂の中を見んさったぎねぇ、

如来さんの袈裟に自分の洗濯したシーツば、

如来さんの袈裟の代わりに掛けとったと、

目に入【はい】った。

そいぎぃ、

あらーと思うて、如来さんの後光の姿、有難いお姿に、

そして思わず婆ちゃんな、

「南無【なむ】阿弥【あみ】陀仏【だぶつ】、

南無阿弥陀仏【なまんだぶ】、南無阿弥陀仏【なまんだぶ】」

て言うて、拝んだ。

そいで、この牛が婆ちゃんの無信仰じゃったけど、

如来様は牛になって婆さんに帰依しんさったとばいて。

それから信仰するようになったて。

そいばっきゃ。

[一〇六  格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P379)

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